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ボーンマス、ヨーロッパに見る夢

はじめに

 プレミアリーグが始まって3節、所謂代表ウィークに入った。これまでの3節で最もセンセーショナルな試合を演じたのは間違いなく、ボーンマスだった。エバートン相手の87分からの2点差の逆転はサッカー本来の面白さを思い出させてくれた。

 そんなボーンマスだが、ヨーロッパを目指した変革の最中にいる。

 

 

今シーズン

 ラリーガのラージョから、新たに就任したアンドニ・イラオラ監督の1年目はまずまずの結果だった。2023年に6月に2年契約を結んだイラオラは25/26シーズンまでの契約延長を発表している。昨季に関しては、序盤は苦しんだものの徐々に復調し、クラブ史上最多記録となる勝ち点を記録した。

 今シーズンはここまで3節で、1勝2分と無敗のまま8位に位置している。エバートンに対する劇的な勝利は印象も残っているが、2節ニューキャッスル戦でも幻の逆転弾を上げていた。結果的に、ハンドとして取り消されたダンゴ・ワッタラのショルダーゴールは強豪相手にも勝つことができる今シーズンの力を表していた。

 

 ボーンマスのオーナー、ビリー・フォーリーは、トップハーフでの終了を目標としていると発言している。もしかしたらとヨーロッパへの挑戦も。新たなフォーマットになったヨーロッパコンペティションでは、依然と比べ高い順位まで出場権が与えられる可能性がある。ヨーロッパコンペティションへの出場も、あながち遠い目標ではないのかもしれない。わずか3節から、今シーズンの趨勢を予見することは難しいが、少なくとも期待が持てる取り組みが見られる。

 

"Our real goal is to play in Europe, to give our players a chance to experience Europe and do it with little Bournemouth."

「私たちの本当の目標はヨーロッパ(コンペティション)でプレーすること、選手たちにヨーロッパの舞台でのプレーを経験するチャンスを与えること、そしてそれをボーンマスで行うことです。」

 

 まず、ボーンマスの現状を簡単に確認しておこう。

 今シーズン最も大きなニュースは、昨シーズンリーグ38試合で19ゴールを記録した絶対的エース、ソランケのトッテナムへの移籍だった。6430万ユーロで移籍していったソランケの穴を埋めることはボーンマスにとっては重要な問題だった。ヘタフェから完全移籍で加入したセンターフォワード、エネス・ウナルはEuro2024で負傷し、シーズンのスタートには間に合わなかった。

 ボーンマスポルトから、エヴァニウソンの加入を発表する。3700万ユーロという移籍金はボーンマスのクラブ史上最高額だった。昨シーズン公式戦42試合に出場し、25ゴールを記録したエヴァニウソンは新たなエースとしての活躍が期待されている。

 さらに、正ゴールキーパーだったネトがアーセナルへローン移籍をした。代わりに、チェルシーから、ケパ・アリサバラガが加入した。1節、2節はネトがゴールマウスを守ったが、3節からはケパがゴールマウスを守ることになった。

 セメンヨ、タヴァーニアー、クライファートを中心とした攻撃陣に、リーズからシニステラが加入した。

 守備陣には、バルセロナからフリアン・アラウホが加入した。

 

ニューボーンマス

ボーンマスに期待できる要因の一つは経営陣だ。2023年にアメリカ人の大富豪ビリー・フォーリーによって買収されたボーンマス。元々、NHL(ナショナルホッケーリーグ)のベガス・ゴールデンナイツのオーナーだったフォーリー氏。アメリカから、フットボール産業に参入した後、フォーリーは複数のクラブのオーナーになっている。現在は4つのクラブのオーナーになっている。AFCボーンマスロリアン(フランス)、ハイバーニアン(スコットランド)、オークランドFC(ニュージーランド)。ちなみに、オークランドFCには、元日本代表の酒井宏樹が最近加入した。

複数クラブのオーナーになるメリットはマンチェスターシティを始めとして、多くのクラブが実践していることから見て取れる。実際にフォーリーは以下のように語っている。

 

"We are not a sovereign wealth fund or private equity. We are just simple little guys from America who came over and bought a team. We have a multi-club strategy so we promote players from Club A to Club B to Club C to Club D."

私たちは国家ファンドやPEファンドではない。私たちはアメリカからやってきてチームを買った小さな存在だ。私たちは複数のクラブによる戦略を取っており、クラブAからクラブB、クラブBからクラブC、クラブCからクラブDへと選手を昇格させていく。

 

"It is not just going to be Bournemouth and a bunch of other teams. It is all designed to give the players a path to the Premier League. If we can do that, we should be able to be competitive and not have to kill ourselves financially. That will be our competitive edge."

(マルチクラブの戦略は)ボーンマスとその他のチームというわけではない。すべてはプレミアリーグへと続く道を選手たちに提供することにある。そうすることができれば、競争力を持つことができるし、経済的に苦しい思いをする必要もなくなる。それが我々の武器になる。

 

 オーストラリアから、スコットランドやフランス、そして最終的にイングランド(ボーンマス)と段階的にクラブを所有することで語るように、段階的に選手を昇格させることができる。さらに、それらのクラブでも同じ方針を共有できるため、他のクラブの選手と比べ、早期にチームのスタイルにマッチする選手を育成することにも繋がる。

 ニューカッスル戦で幻の勝ち越し弾を挙げた、ダンゴ・ワッテラはまさにロリアンからボーンマスに移籍してきた選手だ。

 ただ、この広く普及しているスタイルはファンの反感を大いに買う可能性がある。現時点では、4つのクラブはボーンマスを頂点とする組織として成り立っている。ボーンマスファンにとっては嬉しい話かもしれないが、それ以外のクラブはただボーンマスに選手を供給するクラブという役割を担っているという見方もできる。それ故に、ファンからの反感を買いやすい。ただ、フォーリーはロリアンボーンマス以上の存在になる可能性があるとも話している。残念ながら、ロリアンは昨シーズン1部から降格しており、今シーズンは3節終了時点で2勝1敗、5位に位置している。

 

ベガス・ゴールデンナイツ

 フォーリーがサッカー界に参入する前にオーナーを務めていた、ラスベガスのアイスホッケーチーム「ベガス・ゴールデンナイツ」。長らく、アメリカの4大スポーツ(アイスホッケー、バスケットボール、アメリカンフットボール、野球)のいずれのプロチームも存在していなかったラスベガス。そこにフォーリーがオーナーとして、誕生したベガス・ゴールデンナイツ。新生チームとしては、異例の1年目での年間王者決定戦である「スタンレーカップ」(日本の野球でいう日本シリーズ)に出場を果たした。1年目では、優勝を果たすことはできなかったが、6シーズン後の22-23シーズン、ベガス・ゴールデンナイツはスタンレーカップの優勝を果たした。

 ベガス・ゴールデンナイツの6シーズンでの優勝は、フォーリーの創設当時の「6年でスタンレーカップを」という発言を実現させるものになった。

 

「5年以内にヨーロッパ(コンペティション)に進出できると思っている」

 ガーディアンのインタビューによると、フォーリーは上記のように考えているという。同じような位置から、ヨーロッパへの出場権を獲得するまでに成長したブライトンの成長からインスパイアを受けているというフォーリーはクラブへの計画を口にした。

 スタジアムの改築はフォーリーの計画の一部だ。新スタジアムは2027年夏に完成すると見込まれている。現在のバイタリティ・スタジアムの収容人数1万2000人。新バイタリティ・スタジアムは1万8000人から元の倍ほどの収容人数になるようだ。フォーリーによると、新スタジアムではホスピタリティ関連の施設が16-17%を締めるそうである。現在のスタジアムのホスピタリティ関連の設備が6%前後であることを考えると、大幅な増設になる。

 ベガス・ゴールデンナイツの特徴の一つはホームゲームでのアウェーファンの多さだった。ラスベガスというある意味でホスピタリティの塊のような街が多くのアウェーファンの獲得に影響を及ぼしていたことは想像に難くない。新スタジアムもそういった意味でボーンマスに良い影響を与えるだろう。元々、イギリス南部のドーセット最大の都市であるボーンマスは高級ビーチを有する有数のリゾート地である。様々な相乗効果が期待できる。

 前述した、マルチクラブオーナーシップも時間が経つにつれ効果を発揮するだろう。ベルギーリーグのクラブの買収を考えているという報道もあり、さらに広範囲にスカウト網を広げることも考えられる。これから数年注目を集めることになるだろう。

 

最後に

 ボーマンスのロゴには、なびく髪を持つ人物が頭でボールを操っている姿が描かれている。セリエAアタランタも、同じようになびく髪を持つ人物が描かれている。アタランタのロゴの由来がギリシャ神話の女性の英雄であるのとは違い、ボーンマスのロゴの由来は実際の人物である。1957年から1962年までボーンマスでプレーしていた伝説的な選手、ディッキー・ドーセットがロゴに描かれている人物だ。

 ボーンマスでの5シーズンで、3年連続で得点王に輝いたドーセットは引退後ボーンマスの商業マネージャーに就任する。クラブ名をAFCボーンマスに変更し、アルファベット順で最上位に表示されるようにしただけでなく、ACミランに似たユニフォームを導入することでボーンマスの商業的価値の向上に貢献した。ユニフォームと名前を変更した後、バッジの変更も検討される。その際、ヘディングが得意だったドーセットの姿がデザインに利用される。それが、現在のなびく髪を持つ人物が頭でボールを操っている姿になった。

 選手としてだけでなく、商業的にボーンマスに大きな影響を与えたドーセットは多くの人に気づかれなくとも、常に存在し続けてきた。ピッチサイドに、テレビに、そして選手の胸に。

 ドーセットがクラブを変えたように、フォーリーもまたクラブを変えようとしている。彼の姿をヨーロッパの舞台で見る日は近いのかもしれない。