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「エル・クラシコ」を歴史から見よう。

 絶対に負けられない戦いがここにある。

 一昔前の日本代表戦、お決まりのフレーズである。ただ結果のために戦うわけではなく、国の威信をかけて戦う代表選手にはピッタリだ。同じように、クラブチームにも結果以上のプライドや伝統をかけて戦うことがある。その代表格が「エル・クラシコ」。

 スペイン、ラリーガの2大巨頭「レアル・マドリード」と「バルセロナ」。 Embed from Getty Images 彼らの対戦を指す「エル・クラシコ」。エル・クラシコ(El Clásico)とは、スペイン語で「伝統の一戦」を表す。英語ではThe Classic。

 エルクラシコでのリオネル・メッシクリスティアーノ・ロナウドの対戦は長らく、世界中を熱狂させてきた。今でも語られる世界一決定戦であると共に、彼らが共有する歴史と伝統がその理由であるのは間違いだろう。時が流れ、リオネル・メッシも、クリスティアーノ・ロナウドもラリーガから去り、リーグとしても、両クラブとしても過渡期に入った。レアル・マドリードはほんの少し暗黒期に入るかもといったくらいで上手く変化していった。バルセロナは一層ひどく暗黒期に突入した。ところが、クラブOBシャビ・エルナンデスが同じくOBロナウドクーマンから監督を引き継ぎ、何とか好転をもたらしてきた。それでも、まだまだあの伝説的なバルセロナには遠く、シャビ・エルナンデス監督も今シーズン限りで辞任の意向を示している。CLを勝ち進んでいることで続投のような空気も流れたが、アラウホの退場から計画は狂い、未来は辞任一直線へと戻っていった。その試合でも、シャビは怒りを中継カメラ横のクッションにぶちまけ、ピッチから姿を消した。多くのファンはいつものシャビを再認識することになっただろう。


 誤解を恐れずに言えば、一昔前と比べれ「エル・クラシコ」の魅力は減ってきているかもしれない。メッシとロナウドという、サッカーそのものを代表するような選手が両チームにいたこと自体が奇跡であり、幸運だった。今の選手たちが大したことがないと言っているわけではないが、彼らと比べると少し見劣りする(というか、誰もが見劣りする)。それでも、バルセロナからはペドリやガビは言わずもがな、ヤマルやクバルシ、フェルミン・ロペスなど次世代を担うスーパースターが出てきている。レアル・マドリードも、ヴィニシウスやロドリゴだけに飽き足らず、例の彼が来期には来るかもしれない。誰もが過ぎ去った過去を見ている中で、我々は革命前夜にいるのかもしれない。そんな、きたる時代を楽しむために「エル・クラシコ」の伝統と歴史をいまいちど確認しておこう。

スペインという国

 

 まず、注目してほしいのが、スペインという国の在り方である。スペインと一言で言っても、いくつもの民族が集まってできている国である。現に、スペインには「自治州」と呼ばれる国と県の間に相当する大きな権限を持つ広域自治体が存在している。憲法によると、スペイン国民の永続的統一性という原則の下、歴史的、文化的および経済同一性を有する隣接県は自治州を構成することができる。自治州は約1500年にスペイン王国が成立する以前から各地域の独自の伝統が、変わりつつも今日まで続いているものだと考えていいだろう。例えば、北にはバスク自治区があり、東にはバルセロナを州都とするカタルーニャ自治区がある。歴史や文化を共有するということから想像できるかもしれないが、そういった地域には独自の言語があり、独自の国旗があり、独自の憲章がある。スペインという国の特徴を少しでも理解できただろうか。

 そこで、2クラブの誕生の歴史を見ていこう。

バルセロナ

1899年、世紀末、ジョアン・ガンペールやアーサーウィッティらによって、FCバルセロナは誕生した。どのクラブの誕生秘話と同じように、始まりはただの彼らのクラブ活動であり、サークル活動だった。それから数年たって、1906年「foot-ball club Barcelona」から「futbol club Barcelona」に改名される。英語のfootballがスペイン語のfutbolに変わっている。このことから、クラブはより地域に溶け込んでいく。そもそも、なぜ英語表記だったのか疑問に思う人もいるだろう。それは、ジョアン・ガンペールがスペイン人ではなく、スイス人だったからであり、アーサーウィッティがイングランド人だったためである。そのため、バルセロナのユニフォームカラーはスイスのバーゼルFCをイメージした色が採用された。

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FC バーゼル

レアル・マドリ―

 1895年に学生や教師によって設立されたクラブが分裂。1902年、その片方がエル・マドリ―の名前に、現在のマドリ―の前身のクラブが誕生する。1920年に王室から「レアル」の名を預かり現在の「レアル・マドリ―」になる。首都であるマドリ―ドは大きな成長の最中にあり、マドリーはその中央政府の後押しを受けながら、ラリーガに参戦していくことになる。

 1928-1929年に始まった国内リーグだが、バルセロナが初代王者に輝いた。一方で1931-32シーズンからマドリ―は連覇を果たした。その後、国内リーグは7シーズンで中断することになるが、その間最も優勝したのはアスレティック・クルブだった(4回)。

 さて、中断することになった国内リーグだが、その理由がスペイン内戦である。

スペイン内戦

 1936年

、スペイン陸軍が当時のスペイン第2共和国政府に対して、クーデターを起こす。そのころ、日本は昭和11年、2.26事件が勃発した年だった。この内戦で反乱軍に立ちふさがったのが、大した脅威ではないと思われていた国民だった。武装した社会労働系の労働総同盟(UGT)、アナキスト系国民労働連合(CNT)、そして市民。彼らによって、一時的にはマドリードバルセロナバレンシア、マラガ、ビルバオ等 の反乱軍を鎮圧してしまう。

 ところが、カナリア諸島からモロッコに移動したフランコがクーデターの指揮を執るようになり、ジブラルタル海峡ヒトラームッソリーニの協力により飛び越え本土に上陸した。それに伴って、クーデターが復活する。

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 1936年フランコ軍は首都マドリードに迫る。フランコ軍がイタリアやドイツから支援を受けていたのに対して、スペイン政府はソ連からのみ支援を受けていた。マドリードはイタリアやドイツ軍による空爆を受け、陥落は時間の問題だと思われていた。それでも、「奴らを通すな(ノー・パサラン)」を合言葉に人民戦線は物資の不足するなか、フランコ軍に徹底的に抵抗した。そんな、スペイン政府のもとには世界中から義勇軍が集まった。その中には、アーネスト・ヘミングウェー、ジョージ・オーウェルなども含まれていたという。その間にも、イタリア・ドイツは反乱軍が設けた臨時政府を認め、軍隊を義勇兵として送りこんでいた。

 マドリード攻略が停滞したことによって、フランコは目標をスペイン北部に移す。1937年、バスク地方への攻撃が開始された。ドイツ軍のバスクの小さな町ゲルニカへの無差別爆撃は国際的に批判を浴び。ピカソによって、大作「ゲルニカ」が制作された。

パブロ・ピカソ作「ゲルニカ

 人民戦線も一枚岩ではなく、組織内で共産党アナーキストなど内部分裂が起きていた。1937年5月には、バルセロナでの両陣営による戦闘が起き多数の死者を出した。

 同年6月、バスク地方は制圧され、自治権を剥奪された。1938年フランコ軍は政府が移ったバルセロナへの攻撃を開始していく。必死に人民戦線が戦う中、各国の動きを見て、スターリン率いるソ連はドイツとの提携に転じ、人民戦線への支援は打ち切られた。

 バルセロナは1939年1月に占領され、マドリードも3月28日に降伏した。残ったバレンシアも30日に陥落し、そこで内戦は終結した。

 問題はその後、抵抗をしていたバスク地方カタルーニャ地方に、フランシス・フランコ率いる新政府は言語的弾圧だけでなく、文化的な活動も禁止された。特に、バスク地方に対する弾圧はETA(Euskadi Ta Askatasuna日本語:バスク祖国と自由)などのテロ組織を生み出すきっかけとなった。

2011年のETA: AP

 そういった、弾圧がフットボールの場に影響を及ぼし始めた。内戦の前の結果を見てもわかるように、バルセロナとマドリ―の闘いは今日のようなものではなかった。よくある対戦の一つだったという。アトレティック・クルブが当時はトップに君臨していたからである。それでも、内戦後は明らかにこの対戦カードは特別な意味を持つ戦いになっていった。独裁者フランコ将軍のいるマドリードを本拠地にするレアル・マドリーは、国の権力の象徴としての役割が与えられ、カタルーニャバルセロナはその逆、反逆者として扱われるようになったからである。お互いに対する敵視はフットボールというよりは、彼らが歴史によって宿命づけられた役割によって増幅されていったと言えるだろう。

 バルセロナが政府の裏回しがあったとされる審判や警察の圧力により、1-11で敗戦したこともあった。マドリ―の連覇がバルセロナとゆかりがあるイングランド人の審判の不可解な判定の連発によって防がれたこともあった。どの事件にも、確固たる証拠はない。証拠がないゆえに各クラブの溝は深まるばかりだった。

 ここまで、見てきたバルセロナやレアル・マドリ―のように、スペインサッカーの歴史はスペイン内戦の影響を受けてきた。最初期トップに君臨していたアスレティック・クラブも、トップレベルではあまりに珍しい「純血主義・属地主義」を貫いている。今日、彼らが巻くキャプテンマークにあしらわれているバスク州の国旗は、フランコ政権下では使用が禁止されていた。

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バスク自治州旗 イクリニャ

 バルセロナレアル・マドリーそして、アトレティック・クルブ。内戦とその後、大きな影響を受けつつも彼らは各々の道を進み、それぞれの文化が花開いた。改めて、エル・クラシコ、そしてスペインサッカーの歴史と伝統を確認できただろうか。

最後に

 スペイン内戦をテーマにした、事実に即した小説「サラミスの兵士たち」。この本では、フランコ軍に協力し、戦後は中心的な政党になったファランヘ党の幹部サンチェス・マサスにスポットライトを当てている。作家として、多くの人を内戦へと扇動したサンチェス・マサスは反対側から見れば、とてつもない悪党だった。彼のスペイン内戦での経験は衝撃的なものだった。何せ、彼は内戦中、人民戦線につかまり銃殺される寸前までいったからである。何とか、銃殺から森に逃れた彼は追ってきた人民戦線の兵士に見つかる。その時、サンチェス・マサスを見つけた兵士は何を思ったのか、彼を見逃しその場を立ち去った。彼らが、何を思いその行動を起こしたのか、それは各々が本を手に取ってもらいたい。この本は事実に即していると言って小説であり、どこまでが本当の話でどこからが創作は分からない。実際に、作中では小説家が主人公にインタビューを「でっち上げてしまえ」と助言する場面すらある。

 それでも思うのが、国同士の戦争と内戦の違いである。知り合いが敵にも、味方にもなる内戦では、敵を「話の通じない野蛮な悪魔」として見ることはできなかっただろう。そして、それは戦後も同じだっただろう。憎むベき相手であり、アイデンティティを同じくする仲間だった。そして、サッカーはそういった感情の表現の場所を担ってきたと思う。相手のクラブチームを憎み、そして代表チームを愛してきた。https://amzn.to/3JxIsYh

サラミスの兵士たち

Premier League, あなた誰? ファンマ・リージョ、ジェイソン・ティンダル、オースティン・マクフィー

 サッカーの試合を見ていると、試合をしている選手やコートだけでなく、ベンチや客席、コレオグラフィーが映し出される。客席のファンや監督の反応を見ていると、さらなる臨場感が楽しめ、コレオグラフィーは試合を特別なものにしてくれる。特に、両監督を映し出す映像は両チームの性格を映し出しているようで面白いものだ。

 ただ、カメラの映像を見てみると、よく映り込む人物がいる事に気づくと思う。そういった人はベンチ回りに多く、映りはするものの一体これは誰なんだ、といったことを思っていることだろう。今回はそういった人を数人紹介していく。

ファンマ・リージョ

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ペップ・グアルディオラ監督(左)とファンマ・リージョ(右)

 まずは、現在首位を走るマンチェスターシティから。監督ペップ・グアルディオラは今では、誰もが知るところになったが、試合中彼がベンチでよくスタッフと話しているところが映し出される。ファン・マヌエル・リージョ(ファンマ・リージョ)、哲学者とも評される、この人物は現在マンチェスターシティでアシスタントコーチを務めている。Jリーグヴィッセル神戸でも、監督を務めた経験もあるため、知っている人もいるだろう。そんな、ファンマ・リージョについて見ていこう。

 ペップ・グアルディオラが最も、影響を受けた一人であるという、リージョの経歴を見ると、驚くことに29歳でスペイン1部の監督デビューしている。10代の時から、監督への道へ進み、いくつかのクラブの監督を経て、1992/93シーズンに当時2部だったUDサラマンカの監督に就任。1994/95シーズンには1部への昇格を果たした(UDサラマンカは12-13シーズンに解散した)。それから、1996/97シーズン、リアル・オビエドで初めて現役のペップ・グアルディオラと対戦し、CDテネリフェ、レアルサラゴサ、などの監督を経験し、2005/06シーズン、メキシコのドラドス・シナロアでペップ・グアルディオラと初めて共に仕事をした。この時、ペップはまだ現役の選手だった。レアル・オビエドでペップと初めて対戦した後から二人の交友関係は始まったと語っている。

 その後、レアルソシエダアルメリアミジョナリオスFCの監督、チリやセビージャのアシスタントコーチを経て、18/19シーズンに日本のヴィッセル神戸の監督に就任した。ラリーガで最後に監督を務めたアルメリアから解任することが決定づけられたのは、ペップが率いるバルセロナに対する8-0での対敗だった。その後、半年で、日本から去ることになり、中国スーパーリーグを経て、19/20シーズンマンチェスターシティのアシスタントコーチに就任する。22/23シーズンにアル・サッドの監督になるも1年でマンチェスターシティのアシスタントコーチに戻って来た。

Transfermarkt.jp

 ペップのアシスタントコーチには、ミケル・アルテタ等、皆が知る人物が行ってきた。リージョとは、一体どんな人物だろうか。リージョの名前をインターネットで調べてみると、戦術家として紹介されていることがよくある。ペップのアシスタントコーチを務めるくらいだから、戦術に通じていそうだが、所謂戦術に強い監督でも、例えば、ペップとクロップは全然違う。リージョはどんな監督だろうか。

 経歴を見る限り、彼は世界中が知っているようなクラブを率いていた経験もなく、誰もがうらやむようなトロフィーを手にしているわけでもない。数字を見る限り、パッとしない監督である。まず、いくつもの記事や書籍で語られるのはリージョの4-2-3-1についてである。今や一般的なフォーメーション4-2-3-1。このフォーメーションを作り上げたのが、リージョ本人というのである(諸説あり)。このフォーメーションはその機能性から、世界中で利用されるようになった。こういった話を聞くと、まるでチェスや将棋の駒のように選手を配置し操る、戦術家という側面が強く感じ取られる。ところが、このイメージと実際のリージョの考えは大きく違うようである。彼に言わると、サッカーの試合というのは選手のものであり、監督が試合中にもたらすことができることはそう多くないらしい。These Football Times の「What if success looked a lot like failure? The story of Juanma Lillo(もし、成功が失敗のように見えたら?)」によると、リージョは以下のように語ったという。

 

 “A manager is nothing more than a facilitator, at the very most. A manager must be like God, be everywhere but nowhere to be seen. At the very most he or she facilitates things but not more. The players are what’s truly important, with good footballers everything is easier.”

監督はせいぜいファシリテーターにすぎない。どこにでもいるが、誰にも見えない神のような存在でなければならない。できることと言えば、物事を円滑に進めるだけでそれ以上はできない。選手たちが重要なのだ、いい選手がいればすべてがうまくいく。

thesefootballtimes.co

 彼に言わせれば、4-2-3-1というような、フォーメーション図は無意味なもので、選手たちによって行われる以上サッカーとは何が起こるかわからない予測不能なスポーツなのだ。彼の考え方は我々の観戦方法にも、何かをもたらしてくれるかもしれない。

 

「今は誰もがサッカーではなく、“人形”の話をするようになった。誰もが紙に“人形”を描くようになった。こんなのは私の息子だってできるよ(笑)。このね、『×』で表現されているものも、こっちはメッシでこっちは誰だかわからない選手だ。どうして同じ価値観で表現できる?」

2018/09/18 footballista 「まるで禅問答。ヴィッセル神戸ファンマ・リージョ監督の哲学」

www.footballista.jp

ジェイソン・ティンダル

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ジェイソン・ティンダル(左)とエディ・ハウ監督(右) 

 ピッチラインぎりぎりまで迫り選手たちに指示を出す。一般的な監督の振舞だ。ただ、アシスタントコーチがこのように振る舞うことは珍しい。

ニューキャッスルの監督である、エディ・ハウよりも目立つことで有名にもなった、ニューキャッスルベンチで存在感を放っている人物。それが、ニューキャッスルのアシスタントコーチ「ジェイソン・ティンダル」だ。近年、クラブ力を上げ、強豪クラブへの仲間入りへも後、一歩というところまで来ているニューキャッスル。ジェイソン・ティンダルはそんなクラブでどんな役割を果たしているのだろう。

 その前に、軽く彼の経歴を見てみよう。

 1995年にCharlton  u18のチームからキャリアをスタートしたティンダルはCharlton U21のチームから、ボーンマスへ移籍し、その8年後の2006年、ウェイマスFCへと移籍した。その後、一定期間無所属となった後、ボーマスに2011年に復帰し、2011年に引退している。コーチのキャリアを見ると、ウェイマスFC在籍中に選手権監督をこなしたのが、始まり。2008年からボーンマスでアシスタントコーチを、そして10/11シーズンからはバーンリーでアシスタントコーチを、12/13シーズンにボーンマスアシスタントコーチに再び戻り、20/21シーズンには監督に就任した。20/21シーズンの途中には、シェフィールドユナイテッドのアシスタントコーチへと移り、21/22シーズンから現職のニューキャッスルアシスタントコーチに就任した。

 監督であるエディ・ハウとジェイソン・ティンダルの関係はボーンマスで10年、バーンリーで19カ月続いている。このコンビはニューキャッスルで知っての通り、確かな結果を残し始めている。The Athleticsによると、エディ・ハウとティンダルの性格は正反対だそう。エディ・ハウが内向的なのに対して、ティンダルは外交的だ。それでも、彼らが共に働いていけるのは、彼らが同じ理念を共有し、長い間共に仕事をしてきたからだそうだ。具体的には、エディ・ハウが攻撃面を担当し、ティンダルは守備とセットプレーを担当している。さらに、監督としての仕事も彼らは分担している。エディ・ハウが試合に集中する一方で、ティンダルは第4審とのコミュニケーションなども行うという。

 こう見るとニューキャッスルには、2人の監督がいるようである。しかも、上手く協力した。彼らは、ボーンマス時代から、選手などに対する面談でも、2人で行い。それぞれが別の角度からの意見を提供できるという。彼ら二人がピッチ際に立ちすぎているせいで、プレミアリーグでは、一人しかテクニカルエリアにしか立ってはいけないとルールが追加された。そのおかげで、エディ・ハウとティンダルは状況によって、バトンタッチをし、タッチラインに出てくる。冷静に試合を見つめるエディ・ハウ、そして「狂犬」と呼ばれるジェイソン・ティンダル。二人のバランスがニューキャッスル躍進のカギになってくるだろう。たまに、前に出過ぎることもあるが。

オースティン・マクフィ

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 中央で分けた金髪の長髪と髭。画面にカットインしたときのインパクトは大きかった。エメリ率いる、アストンヴィラのベンチを見ると彼が目に入る。アストンヴィラのセットプレーコーチ、オースティン・マクフィ―44歳。昨年あたりからのアストンヴィラを見ていると、セットプレーの多彩さを感じる人も多かっただろう。

 マクフィーはスコットランドのフォーファーu20から選手としてのキャリアを始め、アメリカに渡り、その後ルーマニアへ、そして2003年に日本のFC刈谷に移籍し、そこで引退した。実は、日本とも関りがある人物である。

 引退した後は、スコットランドに帰り、いくつかのクラブの監督とアシスタントコーチを経験。順当にリーグを上がっていき、スコティッシュプレミアリーグ(一部)のハート・オブ・ミドロシアンのアシスタントコーチ、暫定監督、スポーツダイレクターと順に就任する。次に活躍の場をデンマークに移し、FCミッティランのアシスタントコーチに就任する。ちなみに、この当時のFCミッティランのオーナーは現ブレントフォードのオーナー、マシュー・ベンハムだった(現在はデンマークの億万長者、アナス・ホルシュ・ポールセンに売却されている)。そして、その1年後の2021年8月アストンヴィラのコーチに就任する。就任してから、3人の監督ディーン・スミス、スティーブン・ジェラード、ウナイ・エメリの元で必要とされ、現在でも重要なコーチの一人になっている。

 彼の仕事ぶりは試合を見ていると分かるものだが、実際に今シーズンのゴールを見ると現在リーグ3位となる14ゴールをセットプレーから挙げている。それに、カンファレンスリーグリール戦では、2ゴールともセットプレーから決まっていた。いくつかのパターンを見てみよう。

 

 


 マクフィーはセットプレーに細部までこだわっていて、trackman(ドップラー技術を利用しボールの動きを追跡する、ゴルフで初めて使用されたレーダーシステム)まで使用しているという。その徹底ぶりが、アストンヴィラの武器を増やしていることは間違いない。アストンヴィラが空中戦に強い、恵まれた体格の選手ばかりではないそれでも、セットプレーから得点を量産できているのはマクフィーの仕事あってのことだろう。

最後に

 中継でよく抜かれる人物を3人紹介してきた。試合を見ていると、チームの方針や戦術が変わっていることに気づくことがあるだろう。そんな時、それは誰の影響だろうと考えるとまた、面白いサッカーの見方ができるかもしれない。個人的には、ファンマ・リージョの考え方は多少、これまでの観戦感を変えてくれるものだった。言っていることが難しく、ほんの何割かしか理解できていないかもしれないがいくつかの点は覚えておこうと思う。何が起こるか分からない状況を楽しむこと、結果にとらわれないこと。

24-25チャンピオンズリーグ 新フォーマット解説 ~プレミアリーグCL出場権争い~

動画作ってみました。

www.youtube.com

 

 主要なリーグでは、23-24シーズンも終盤戦に突入した。シーズンが終わりを迎えるにつれて、優勝争いや降格圏脱出争いは熱を帯びていく。それと同じく、終盤戦のもう一つの楽しみがヨーロッパ主要大会への出場権争いである。主要リーグでは、上位から順に「UEFAチャンピオンズリーグ」(CL)、「UEFAヨーロッパリーグ」(EL)、「UEFAヨーロッパカンファレンスリーグ」(ECL)への出場権が振り分けられる。

プレミアリーグ22-23シーズンを例にみると、以下のように出場権が与えられた。

1位~4位「UEFAチャンピオンズリーグ

5位~6位「UEFAヨーロッパリーグ

7位   「UEFAヨーロッパカンファレンスリーグ」

22-23 Premier League

 そんな、ヨーロッパ主要大会だが24-25シーズンから大会フォーマットが大幅に変わる。従来のこれら三つの大会は、以下のようなフォーマットで行われていた。

 32の参加クラブが4チームずつ8つのグループに分かれ、グループ内リーグ戦での上位数チーム(大会によって変わる)が決勝トーナメントに進む。

 それが、来年からは所謂スイス式トーナメントに代わる。これまで、アウェーゴールがしれっとなくなるなど、絶えず変化してきたCLなどヨーロッパ主要大会だが、今までと比べても大きな変化と言えるだろう。

新フォーマット

 新しいフォーマットのCLでは、参加する36チームは予選の段階で1つの大きなリーグにまとめられる。参加クラブは9クラブずつ4つのポットに分けられる。どのクラブもそれぞれのポットのクラブと2試合ずつ計8試合行う。最終的なリーグの上位8クラブが決勝トーナメントに進出。9位-24位のクラブはホーム&アウェイ1戦ずつ行うプレーオフラウンドに進出する。プレーオフで勝利した8クラブが1位-8位の待つCLの決勝トーナメントに、敗北した8クラブはヨーロッパリーグに進む。一方で、25位-36位のクラブはそのシーズンのヨーロッパ大会終了となる。

UEFA.com

UEFA.com

ポイント

・36クラブを一つのリーグにまとめた予選ラウンド

・4つのポットに振り分けられたクラブと2試合ずつ計8試合

・上位8クラブが決勝トーナメントに

・9位-24位がプレーオフ

プレーオフ勝者8クラブが決勝トーナメントに

プレーオフ敗者8クラブがヨーロッパリーグ

 

32クラブから36クラブに、増えた4枠は?

 前述したように、新たなCLは4枠増えた36クラブで開催される。では、この4枠は誰に与えられるのか?

 

1.まず、1枠はUEFAの協会クラブ係数ランキング(Association club coefficientの直訳)5位の国に与えられる(フランス・リーグアン)。これにより、リーグアンのCL枠が2枠→3枠に増加。

2.続いて、もうひと枠は協会クラブ係数ランキング11位以降の国内優勝クラブ等によって、争われるCL予選に追加される。4枠→5枠に増加。

3.そして、残りの2枠(European Performance Spots)は前シーズンの協会クラブ係数ランキングが最も良かった2つのリーグに与えられる。既にCLに直接出場権を獲得しているクラブに次いで国内リーグで順位が高いクラブが出場権を得る。

 

 多くの人にとって、重要なのは間違いなく3番目の2枠だろう。現時点での協会クラブ係数ランキング上位国を確認する前に、そもそも協会クラブ係数ランキング(Association club coefficient)とは一体何なのかを見ていこう。

 UEFAランキングなどと呼ばれるこのシステムは今回のようなヨーロッパ主要大会の出場権やシード権を決める際に用いられる。「Association club coefficient」はUCL、UEL、UECLに参加した各国協会のクラブが獲得したポイントを参加したクラブ数で割ったものを指す。そのポイントが高い2か国が追加でCL出場権を得ることができるわけである。そして、そのポイントの獲得の仕方だが、以下の通りになっている。

2ポイント-グループステージ・決勝トーナメントでの勝利(予選・プレーオフは1ポイント)

1ポイント-グループステージ・決勝トーナメントでの引き分け(予選・プレーオフは0.5ポイント)

4ポイント-グループステージ出場ボーナス(UCL)

4ポイント-ベスト16出場ボーナス(UCL)

4ポイント-グループステージ首位(UEL)

2ポイント-グループステージ2位(UEL)

2ポイント-グループステージ首位(UECL)

1ポイント-グループステージ2位(UECL)

1ポイント-ベスト16から上に進出するたびに(UCL、UEL

1ポイント-準決勝から上に進出するたびに(UECL)

 

詳しくは、UEFA公式サイトを参考にしてほしい。

www.uefa.com

  改めて、現在のポイント上位国(23/24シーズン)を確認すると、以下のようになっている。

1位イタリア(124.000ポイント/7クラブ=平均17.714ポイント)

2位ドイツ(114.500ポイント/7チーム=平均16.357ポイント)

3位イングランド(130.000ポイント/8チーム=平均16.250ポイント)

www.uefa.com

 イタリアが優勢であり1枠追加されることが有力視されている。一方で2位3位のドイツ、イングランドはかなり競っている。

 

これからのヨーロッパコンペティション

そのうえで、ヨーロッパコンペティションに残っている5大リーグのチームを見てみよう。



プレミアリーグ

CL             EL           ECL

アーセナル         リバプール       アストンヴィラ

マンチェスターシティ    ウェスト・ハム

 

セリエA

EL       ECL

アタランタ      フィオレンティーナ

ミラン

ローマ

 

ラ・リーガ

CL

レアル・マドリード

バルセロナ

アトレティコ

 

ブンデスリーガ

CL         EL

バイエルン     レバークーゼン

ドルトムント

 

リーグ・アン

CL      EL         ECL

PSG     マルセイユ     リール

 

 残っているチームを見るとプレミアリーグが最も多く(5)、次いでセリエA(4)、ラ・リーガ(3)、ブンデスリーガ(3)、リーグアン(3)と続く。

 どのコンペティションもベスト8まで進み、レベルが高まって来た。アーセナルVSバイエルンレアル・マドリードVSマンチェスターシティなど、どの対戦もビッグマッチである。中でも、プレミアリーグ勢とブンデスリーガ勢の対決は来季のCLに重要な影響を及ぼす対決になってくる。何年振りかにデアクラシカーでドルトムントに敗れ、落ち目とは言え、侮れないバイエルン。いまだプレミアリーグ優勝争いに残っているものの、ポルトに何とか勝利し上がって来た印象のあるアーセナル。神がかり的な逆転劇を幾度と起こし、いまだリーグ戦無敗のシャビアロンソ率いるレバークーゼン。昨シーズンほどの勢いを感じないものの、期待したいウェストハム

CLアーセナルバイエルン、ELレバークーゼンウェストハムは要注目だ。

 

来シーズンのCL出場権

では、ここで来シーズンのCL出場権をまとめてみる。

 

昨シーズン(23/24)CL優勝チーム (1チーム)

昨シーズン(23/24)EL 優勝チーム (1チーム)

イングランド(4チーム)

スペイン(4チーム)

ドイツ(4チーム)

イタリア(4チーム)

フランス(3チーム)

オランダ(2チーム)

ポルトガル(1チーム)

ベルギー(1チーム)

スコットランド(1チーム)

オーストラリア(1チーム)

European Performance Spots (2チーム) (イタリア?ドイツ?イングランド?...)

優勝チーム予選通過クラブ(4→5チーム)

上位リーグ予選通過クラブ(2チーム)

 

なぜ、スイス式トーナメントに変更?

 ここまで、新たなフォーマットについて見てきたが、そもそもなぜUEFAは新たなフォーマットへの変更を行うのだろうか。

 UEFAは新たなフォーマットがもたらすものについて以下のように回答している。

  1. それぞれの大会により多くの欧州チームが参加することから、より多くの欧州トップクラスの試合を大会の早い段階から見る事ができる。
  2. どのチームもリーグ戦を通して同等のレベルの相手と対戦することになり、全チーム間の競争バランスを改善する。
  3. グループステージのどの試合も重要になる。どの試合の結果も順位を劇的に変える可能性を持つ。リーグ戦の最終戦での勝敗がベスト16への切符を手にするのか、プレーオフに進むのか、はたまた大会から姿を消すのかの分かれ目になるかもしれない。

 

 つまるところ、みんなが見たい強豪同士の対決を早い段階から見ることができ、公平な対戦が期待でき、グループステージ全体を通して緊張感のある競争を期待できるというものだろう。UEFAによる新フォーマットの欧州各大会の説明は一理ある。欧州トップクラスの試合をグループリーグから見る事ができるようになるのは間違いない。グループステージのリーグ戦を通して同等のレベルの相手と対戦することもそうだろう。ただ、この新フォーマットがグループステージに良い意味で緊張感をもたらすという点には疑問が残る。まず第一に、本当に緊張感のあるグループステージなるのか?そして、第二に良い緊張感のあるグループステージになるとして、それは新フォーマット導入と釣り合うものだろうか?

 従来の同グループ3チームと対戦するフォーマットと大会参加チームすべてと競争する新フォーマットでは、毎試合重要になることは間違いない。ただ、新フォーマットでは1位~24位が決勝トーナメントないしは決勝トーナメントへのプレーオフに進む。グループ内の4チーム中2チームが進出する従来のフォーマットに比べるとかなり多くのチームが少なくともプレーオフに進むことになる。確かに、競争相手は増えた。ところが、同様に枠も増えた。特に皆が見るような実力があり、人気のチームは数試合の強豪相手の試合を除いても、実力の劣る相手に取りこぼさなければ、ほぼプレーオフ圏内に残ることが可能だろう。もちろん、ベスト16へのプレーオフ等が新たな興奮をもたらしてくれることもあるだろう。この点については、始まってみないと分からない部分もある。

 続いての疑問が新フォーマット導入による選手への負担である。実際のところUEFAの狙いはお金。間違いなく、お金だろう。参加するチーム数が増えるということは、それだけより多くの世界中のファンに大会を宣伝することになる。皆がお金を払ってもみたいという人気のあるクラブが残りやすくなり、さらに試合数も増えるとなれば、大会の人気も高まる。新フォーマットでは、グループステージでの試合数は6試合から8試合に2試合増え、決勝トーナメントプレーオフに進んだ場合にはさらに2試合増える。多くの選手を怪我やコンディション不良に追い込んだ、代表戦を含んだ過密日程が「FIFAウイルス」と揶揄されたように、国内リーグ戦とヨーロッパ主要大会だけでなく、さらに、代表戦をも戦う選手たちへの負担は増加し続けている。新フォーマットがもたらすものは、これらを犠牲にする価値のあるものだろうか。利益を追い求めることは何ら問題がないが、その負担が選手等、現場に来るとなると話が変わってくる。利益は際限なく求めることができるが、選手たちには限界があるのだから。

 

プレミアリーグのCL出場権争い

 プレミアリーグが2枠を争うとすると、どのクラブがCLリーグ行きを勝ち取るのだろうか。

(4/2時点での順位表)

 CL権が4位までか5位までかによって、変わるが現在の順位を見るに基本的に上位3クラブ(リバプールアーセナルマンチェスターシティ)は安泰と言っていいだろう。残りのCL権争いは実質的に3つのクラブで争われるだろう。アストンヴィラトッテナムマンチェスターユナイテッドどのクラブがCL権を獲得できるだろうか。まず、現在の差を考えるとアストンヴィラトッテナムが3ポイント差そして、マンチェスターユナイテッドがさらに8ポイント差になっている。トッテナムアストンヴィラと比べ消化試合数が1試合少ないことを考えると、この2チームは実質的に並んでいると考えてもいいだろう。マンチェスターユナイテッドはその2チームを8ポイントで追っている。ちなみに、得失点差もアストンヴィラ(20点)、トッテナム(18点)、マンチェスターユナイテッド(0点)の順番に並んでいる。

 まず、4位までがCL権を獲得できる場合。つまり、ブンデスリーガセリエAに追加枠が与えられた場合。この場合はかなり熾烈な競争が期待できる。競っている2チームが一つの枠を競って争い、マンチェスターユナイテッドももしかしたら、その争いに参加できるかもしれない。では、2チームのうちどちらがより近いところにいるだろうか。まず、アストンヴィラの今後の予定を確認しよう。プレミアリーグは残り8節、そしてECLベスト8の試合がある。トッテナムは逆にプレミアリーグの残り9節のみがある。この時点で既にトッテナムが多少有利に見える。さらにそれぞれの対戦相手を見ると両チームとも「マンチェスターシティ」「アーセナル」「リバプール」の試合を残している。強いて言えば、ニューキャッスルとの試合を残しているトッテナムが多少不利のような気もするが、誤差の範疇だろう。

 ただ、アストンヴィラトッテナムの日程の過密差には、かなりの差がある。アストンヴィラの日程を見ると、4日にマンチェスターシティ戦、6日にブレントフォード戦、12日にECLリール戦、15日アーセナル戦、19日ECL第2リール戦、21日にボーンマス戦がある。7試合を短いスパンで行う過密日程が待っている。

 しかも、その中にマンチェスターシティ戦、アーセナル戦を含み、さらに来シーズンのヨーロッパ大会権獲得に重要なECL戦も入っている。対して、トッテナムは3日にウェストハム戦、8日にフォレスト戦、13日にニューキャッスル戦、そして、いまだ未定のマンチェスターシティ戦がある。ただその次の試合は28日のアーセナル戦と余裕がある。

 日程的な厳しさも、その日程での対戦相手もアストンヴィラのほうがかなり厳しいものになっている。実際にOPTAによるとトッテナムが4位内で終わる確率の方が幾分か高くなっている。

Opta Analyst

(3/18日時点でのデータ)

5位までがCL権獲得の場合は?

5位まで、CLを獲得できる場合にも基本的には同じことがいえる。問題はマンチェスターユナイテッドだが、かなり厳しい戦いを強いられている。5日のチェルシー、7日のリバプールの短いスパンでの2連戦そして、いまだ残っているFAカップ。ただ、日程というよりも、実力面に不安が残る。実際6位にいるように実力は間違いなくあるのだが、非常に不安定であるように感じる。トッテナムに引き分け、アストンヴィラには勝利、FAカップでは、リバプールに対して劇的な勝利を収めた。それでもなぜか直近のブレントフォード戦では、シュート31本を受け、引き分けで何とか助かったような試合を展開していた。メイソンマウントの復帰とゴール等ポジティブな要素もありながらもかなり厳しい残りの数試合になりそうである。OPTAのデータを見てもこれまた相当不利な戦いになりそうである。

Opta Analyst

(3/18日時点でのデータ)

最後に

 これまで、新たなCLのフォーマット。そしてCL権を獲得するかもしれないプレミアリーグのクラブについて見てきた。実際には見てきた4位や5位までのクラブだけでなく、それ以降のクラブがCL権を獲得することもある。前述したように、CL優勝チームもEL優勝チームもCLへの出場権を得る。そういう場合では、6位でも7位でも出場権を得られるかもしれない。これからはリーグ最終盤であると共に過密日程の幕開けでもある。選手、監督にとっては大変な期間だが、ファンにとっては多くの大会の最終盤の熱狂を楽しめる最も面白い期間である。存分に楽しみたい。

 一方で、見てきたCLの新フォーマットは選手だけでなく、ファンにも混乱をもたらしてきた。それと同時に新たな観戦の視点をくれるのかもしれない。今年で言えば、たとえ競争相手であるトッテナムマンチェスターユナイテッドのファンであっても、アストンヴィラのECLでの勝利やマンチェスターシティのCLでの勝利を喜べるかもしれない。その勝利ポイントが来季のCLの新たな枠をもたらすことになるかもしれないからだ。それとも、それは「真のファン」とは呼べないのだろうか。学生時代散々言われていた「受験は団体戦」という言葉を思い出した。ヨーロッパ主要大会はファンにとってはリーグ毎の「団体戦」かもしれない。

シティやトッテナムに勝利!「ウルブズ」について

 ウルヴァ―ハンプトン・ワンダラーズ通称、「ウルブズ」。プレミアリーグに所属するこのクラブは12月現在13位に位置付けている。順位だけ聞くと微妙なチームかもしれないが、試合ごとに見るとマンチェスターシティに2-1で勝利、トッテナムにも2-1で勝利、ニューキャッスルに2-2で引き分けと目に見える結果を残している。それ以上に「ウルブズ」の注目点は今シーズン始まる前の状態にあった。

 今夏の移籍市場で「ウルブズ」は自クラブファンのみならず、世界中のサッカーファンを驚かせることになった。それが、チームの象徴26歳ルベン・ネベスのサウジアラビアリーグへの移籍である。クリスティアーノ・ロナウドを皮切りにサウジアラビアリーグへの移籍がトレンドになったが、26歳のネヴェスのように全盛期の選手が移籍することは珍しかった。バルセロナや他のプレミアリーグのチームクラブへの移籍の可能性が報じられながらも、トップレベルとは言えないサウジアラビアへの移籍は大きな波紋を呼んだ。

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 チームの象徴だっただけにネヴェスの移籍はクラブにとって打撃だったが、放出しなければならない事情がウルブズにはあった。スポンサー企業の業績不振、そしてFFP(ファイナンシャル・フェア・プレー規則)の問題である。サッカークラブの財政健全化を目的としたこの規則では、移籍金と人件費などの支出が移籍金や入場料テレビ放映権料、大会賞金などのサッカーで得た収入を上回ることを禁じている。つまるところ、得た金額以上を使ってはいけないという話なのだがウルブズはこの規則に抵触しかけていた。そのため、選手売却によるお金が必要であり、ネヴェスを売却せざるを得なかったわけである。さらに、ネヴェスを売却したからと言ってさらなる大きな補強は期待できず、このことも理由のひとつになり、前任監督であったファン・ロペテギの退任が発表された。プレミアリーグ開幕の5日前のことだった。後任には、昨シーズンボーンマスを率いていたガリー・オニールが就任。ところが、開幕寸前には中心選手だったマテウス・ヌネスもマンチェスターシティに移籍することになった。

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 つまり、ウルブズは象徴的な選手を失い、しかも大きな補強はなく、開幕寸前に監督を入れ替えてシーズンをスタートさせた。昨シーズンでさえ、なんとか13位に落ち着いたもののゴール数は全クラブ中最下位であり(31ゴール)、チーム自体も問題を抱えていた。

 そんな状態でスタートしたウルブズだが、初戦マンチェスターユナイテッド戦は驚きに満ちたものになった。結果を見ると0-1での敗北だったわけだが、シュート数を始めチャンスメイクの部分でユナイテッドを上回った。特にフォワード、マテウス・クーニャなどの活躍はすさまじく一人で局面を打開してからのチャンスメイクは大きな衝撃を与えた。さらに、試合終盤にはユナイテッドGKオナナによるペナルティーエリア内でのファール取り逃しもあった(後日、プレミアリーグプロ審判協会が誤った判断だったと謝罪)。そこから、ブライトンなどに敗れつつも前述した強豪相手にも、勝ち点をつかみとって来た。明らかに厳しそうな状況から今の位置にいるのには、様々な要因があるだろうが、選手の活躍を挙げたい。

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 今シーズンのウルブズでは、特に二人の選手の名前がよくあげられる。それが、FWペドロネトと同じくFWのファン・ヒチャンだ。ペドロネトは現時点でのリーグアシスト数トップの7アシストを挙げており、ファン・ヒチャンはリーグ6位タイとなる7ゴールを挙げている。ネトは昨シーズン18試合に出場して0ゴール1アシスト、ヒ・チャンは27試合に出場して3ゴール1アシストという記録だった。この二人の活躍がウルブズを支えていると言っても過言ではないだろう。

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 では、これからのウルブズはどうなるのだろうか

 そのために近年の歴史を振り返る。2016年ウルブズはトップチームへの道のりを歩み始めた。それまでは2部で低迷していたウルブズが中国の投資グループ「復星集団」の企業「復星国際」によって買収された。当時の中国では、政府主導のサッカー強化策の動きで多くの金がサッカーに動いていた。中国クラブの選手の爆買いと共に、中国資本による欧州サッカークラブの買収も相次いだ。インテルミランACミランのミラノ勢、ニース、エスパニョール、サウサンプトンなどが中国企業や投資グループに買収された。ウルブズの買収もこの流れの中の出来事だったわけだ。

 このクラブ買収で大きな役割を果たした人物がいる。それが、クリスティアーノ・ロナウドジョゼ・モウリーニョを顧客に持つことでも、有名な代理人ジョルジ・メンデスである。“アドバイザー”として、ウルブズの移籍に関与することになったメンデスは多くの顧客をウルブズと契約させた。前述した、ルベン・ネベスだけでなく、2017年から監督に就任したヌーノ・エスピリト・サント。リバプールに羽ばたいていったディオゴ・ジョタ、現キーパーと前キーパー、ジョゼ・サーとルイ・パトリシオ、他にも、ジョアン・モウティーニョ、ネルソン・セメド、アダマ・トラオレ、ゴンサロ・ゲデスなどもすべて、メンデスの顧客だ。ポルトガル人でポルトガルを中心に強力なネットワークを持つメンデスが移籍に関わることで、ウルブズは大きな成長を遂げる事になった。一時期、本当にイングランドのクラブかと思うほどポルトガル人がチームに多かったのはこういった背景があった。

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 クラブが買収され、大型移籍によって戦力も大幅に強化されたウルブズは2017-2018シーズンにはチャンピオンシップ(2部リーグ)で優勝し、6年ぶりにプレミアリーグに帰って来た。

 そこで、ウルブズは次の計画に移行する。

 2020年スイスの名門グラスホッパー・クラブ・チューリッヒ(通称グラスホッパー)が香港の企業Champion Union HK Holdings Limitedによって買収される。この企業の会長を務めるジェニー・ワンはウルブズのオーナー復星国際の会長、郭広昌(クオクアンチャン)の妻である。つまり、ウルブズとグラスホッパーは共通のオーナーによって運営される形とになった。「マルチクラブオーナーシップ」と呼ばれるこのシステムは欧州トップリーグでは、多くのクラブによって取り入れられている。有名どこでは、マンチェスターシティを中心として形成されている「シティ・フットボール・グループ」があげられるだろう。今シーズンスペインでミラクルな活躍をしている「ジローナFC」、Jリーグの「横浜Fマリノス」など世界各国のクラブがマンチェスターシティとパートナーシップを結んでいる。共通のオーナーを持つことによって、クラブ間でのノウハウの共有、クラブ間での選手移籍後の管理のしやすさなど恩恵は計り知れない。「ジローナFC」や「横浜Fマリノス」の活躍の一因なのは、間違いないだろう。ウルブズもその恩恵を狙いに行く。

 グラスホッパーはウルブズと同じようにポルトガル人選手、そして地元のスイス人選手が多いが、アジア人選手も所属している。日本からは代表経験もある「川辺駿」「瀬古歩夢」中国人ディフェンダー「リ・ライ」韓国人フォワード「チョン・サンビン」などが所属してきた。実際に「川辺駿」はサンフレッチェ広島からグラスホッパーに2021年に移籍すると2022年にはウルブズに移籍した。残念ながら、出場機会を得ることなく2023-2024シーズンには、ベルギ―、スタンダール・リエージュに完全移籍することになった。

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 ベルギーやスイス、オーストリアのリーグはアジア出身の選手がより、高いレベルの欧州リーグに移籍する前に成長する環境として上手く機能していると言えるだろう。川辺は上手くいかなかったにしろ、南野拓実三苫薫やその他の日本人もビッグクラブ移籍前にこれらの国のクラブを経由していることは少なくない。南野は「レッドブル・ザルツブルク」で、三苫は「ユニオンSG」でプレーしていた。現在ウルブズで爆発しているファン・ヒチャンも南野と同じ「レッドブル・ザルツブルク」で活躍した後に欧州リーグに出てきた。新たな、ファン・ヒ・チャンを生み出すこと。つまるところ才能ある無名の選手を成長させ、トップリーグにいる自チームに送り出すことがこのクラブ役割だと言える。

 三苫薫が「ユニオンSG」で1年間プレーしたのには、実には他にも理由がある。それが、イギリスの労働許可証の問題である。詳しい説明は以下を参照してほしいが、簡単に言うと、代表やクラブでの出場時間によってポイントが与えられ、そのポイントが一定基準(15ポイント)以上でなければ労働許可証を得ることができない。Jリーグでの試合出場で得られるポイントが少なく、この基準が満たせないわけである(最近改定され、Jリーグのランクが上がった)。グラスホッパーには、この労働許可証が発給されない選手をしっかり管理でき成長させることができる場としての役割も持っている。ちなみに、三苫が1年間レンタル移籍していた「ユニオンSG」は現所属の「ブライトン」と同オーナーが保有するクラブである。また「レッドブル・ザルツブルク」も名前の通りレッドブルグループのクラブであり、他にも「RBライプツィヒ(ドイツ)」「リーフェリング(オーストラリア)」「ニューヨーク・レッドブルズアメリカ)」などのクラブを保有している。共通のオーナーが複数のクラブを保有する「マルチクラブオーナーシップ」はヨーロッパサッカーで普及し始めている。

web.gekisaka.jp

 では、話は戻りウルブズはこれからどうなるだろう。この勢いのままリーグ戦を戦い続けられれば去年よりも良い位置でシーズンを終えられるかもしれない。ただ、シーズンはまだ折り返し地点にも到達しておらず、先は長い。ペドロネトを含め、軽傷ながら負傷者が出始めている。毎年恒例、年末年始の過密日程なども考慮すれば、負傷者なしで切り抜けるのは相当厳しそうである。そこで、中心選手が負傷すれば、中々ヘビーな状況になるのは間違いないだろう。ここまで、説明したシステムも何かあったときに、すぐに救世主を呼んできてくれるようなものではない。もちろん、今のウルブズに救世主を呼んでくるような移籍面においての余裕なんてない。じわじわと厳しい現実が迫ってきている感じがしないでもないが、何が起こるかは正直分からない。

 きっと、どれだけ上手くいってもシーズンが終わった時、ウルブズはいい意味で話題に上がるような場所(悪い意味では分からないが)にはいないだろう。ファン・ヒチャンやペドロネト、マテウス・クーニャなどの活躍を始め、厳しい状況ながら、ウルブズの試合には、どこか惹かれるものがある。これからの進展に注目したい。

アスレティック・クルブ解説

ボスマン判決 

 1995年、サッカー界はそれまでと全く異なるものになった。12月15日欧州司法裁判所は後に「ボスマン判決」と呼ばれる判決を出した。これは、当時ベルギー2部のRFCリエージュに所属していた「ジャン・マルク・ボスマン」がヨーロッパサッカー連盟(UEFA)を相手取って起こした裁判である。事の発端はボスマンRFCリエージュとの契約が切れ、ボスマンが新たなチームと契約をしようとしたことにある。今でいうところのフリー移籍で、フランス2部USLダンケルクに移籍しようとしたボスマンだが、よく思わなかったRFCリエージュ側がボスマンの所有権を主張し移籍を阻止ようとした。当時のベルギー・フランスのサッカー協会のルールには、移籍金の支払いによる移籍規制条項が含まれおり、契約が満了しても選手の保有権はクラブにあり、クラブを通してしか選手は移籍することができなかった。つまるところ、契約が満了した選手を獲得する場合も引き続きクラブに移籍金を払う必要があった。

 結局、ボスマンに対して移籍金が払われることはなく移籍は頓挫し、選手登録もされず飼い殺しの状態になった。ボスマンはサッカー協会とRFCリエージュに所有権の破棄を求める訴えを起こし、勝訴。その後、フランスリーグ3部のチームに移籍した。

 ただ、これだけで話はとどまらず、ボスマンは元凶のヨーロッパサッカー連盟(UEFA)に対しても訴えを起こす。

その結果、簡単に言うと以下の2点が認められた。

  1. フリー移籍が可能。(契約が満了した選手の所有権をクラブが主張できない)
  2. EU加盟国出身選手に対しての外国人枠の撤廃。

 それ以前、欧州のリーグでは、契約できる外国人選手の数に制限があり、条件付きで5人までとされていた。その条件が撤廃されたことにより、ヨーロッパでの移籍が活性化した。資本のあるチームは有望な選手を各国から買い集め。逆に資本のないチームは選手を売らざる負えなくなっていた。フリー移籍が可能な以上、力関係は以前とは、逆になり選手が力を持つようになった。所属クラブが選手を引き留めようと契約更新を打診しても、今以上の高い給与を提示できるクラブには太刀打ちできず、移籍金の発生しないフリーで移籍されるならば移籍金目的の売却が残された手段になった。

 現に1995年欧州最大の大会をクライファートセードルフダーヴィッツファンデルサールなどを要し、優勝したオランダの名門アヤックスでさえ、その主力の多くを資本のあるクラブに引き抜かれ、1999年の夏には当時の主要メンバーは誰一人残っていなかった。

 それ以降、資本があるチームは各国から選手を買い集め強力な多国籍軍団を築く一方で資金がないクラブはその草刈り場となった。資金の差はチーム力の差に直結し、チーム力の差が資金力の差を広げた。今もその差は広がる一方である。

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(1995 アヤックス)

 

 

そんな中にも、時代の流れに逆らうチームもいた。

 

Piacenza Calcio 1919

 多くのクラブが外国人選手を入れ多国籍チームになる中、イタリアの「ピアチェンツァ・カルチョ」はイタリア人だけの純血主義を貫いていた。ただ、2001年に初の外国人を補強。そのまま、2003年にはセリエBに降格。2012年に破産。ルパ・ピアチェンツァSSDとして再出発することになった。

 

 ペップ・グアルディオラが率いた、バルセロナもサッカー界のグローバル化とは反対の道をたどったと言えるだろう。その圧倒的な実力がフォーカスされるが、そのメンバーも特別なものだった。グアルディオラは就任当初にそれまでチームの中心を担っていたスター選手「ロナウジーニョ」「デコ」「エトー」の放出を宣言、代わりにアカデミーの選手を多く起用した。

GKビクトール・バルデス、両CBプジョル、ピケ。左SB、ジョルディ・アルバ、中盤の三人ブスケツイニエスタ、シャビ。FWペドロ。そして、メッシ。

 バルセロナ「take the ball pass the ball」内で元バルセロナフォワード、アンリが「アヤックス以後、世界トップレベルでアカデミー出身の若手がこれほど活躍しているクラブはほとんどない」と語るように、チームはそういった面でも特別だった。

世界中の人に愛されているのには、このような理由もあるだろう。

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 ピアチェンツァ・カルチョは言わずもがな、バルサもアカデミーから有望な選手を輩出しつつも、ペップの時代ほど彼らを起用しない。どちらかというと、多国籍スターチームという方がしっくりくるのが現状だ。

 

アトレティック・クルブ

そんな中、純血主義とも言われる哲学を貫いているチームがスペインにはある。

 

athletic club

 それが「ロス・レオネス(ライオンたち)」の愛称で知られる「アトレティック・クルブ」(アトレティック・ビルバオともいう。)

伊藤文

 久保建英が所属する、レアル・ソシエダが本拠地を置くバスク州に同じく、本拠地を置くこのクラブはバスク出身の選手のみでチームを構成するという特徴的な哲学で有名である。

 このクラブは、その哲学からしばしば「バスク純血主義」と言われる。つまり、バスク地方の選手だけでチームを構成しているのである。厳密には「バスク属地主義」というのが正しく『バスク地方出身』「クラブのユースで育った選手」『バスク地方のクラブユースでのプレー経験がある選手』がクラブに入る権利を要す。

 

 驚くべきことに、限定的な選手のみで構成したクラブであるにもかかわらず、バルセロナレアルマドリードアトレティコマドリードに次ぐ4位のリーグ優勝回数を誇っている。また、バルセロナレアルマドリードと並び1部リーグからの降格を経験していない3クラブのうちの一つである。

 

 数々のインタビューで、アトレティック・クルブの強さの根底は結束力にあるという。同じ地域の選手のみで構成されるチームの結束力の高さは想像に難くない。だが、前述した「ピアチェンツァ・カルチョ」、他にも「レアル・ソシエダ」もバスク選抜の哲学を持ちつつも、1989年には放棄した。いくら結束力が高くても、トップレベルの力を維持し続けるのは容易ではないのは明らかだろう。それでも、今日までトップレベルでその哲学を貫くことができたのは、なぜだろうか。

 

特別な結束力の根底にある歴史

 1936スペイン。スペイン領モロッコのスペイン正規軍が共和国政府に対して、軍事クーデターを起こした。軍事政権樹立をもくろんでいた軍に対して、国民が反発。フランコ将軍率いる軍と共和国政府側の内戦の中、バスク政府は共和国政府側を選択する。1937年、マドリ―ドへの攻撃がうまくいっていなかった軍の標的はバスク地方を含む北部へ移る。ピカソの絵としても有名な「ゲルニカ」の無差別攻撃などバスクへの攻撃は熾烈さを増し、同年6月にバスク政府首都ビルバオが陥落。その後、1939年4月1日フランコによって、内線終戦と勝利宣言がなされた。終戦後のバスク地方は、フランコ陣営に弾圧されることになる。「バスク語の禁止」「バスク人の伝統の禁止」などが強制された。この際、チーム名もスペイン語の「アトレティコビルバオ」(Atletico Bilbao)に改名させられた。

 フランコ第二次世界大戦では、中立策を取り、戦後の47年以降は終身統領として権力を維持し、1975年に死去した。フランコの死をもって、再びバスクに自由が戻った。

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 キャプテンマークにも、使われているバスク州の旗もそれまで利用を許されていなかった。このような、歴史的な背景も高い結束力の一因なのは間違いないだろう。

 

家族に近いコミュニティ

 属地主義だからこそ、ファンと選手の距離が近く結束の強いコミュニティが形成されている。元アトレティック・クルブのホセバ・エチェベリアはThe Athleticのインタビューに対して、「チャンピオンズリーグ出場権の獲得など、いい経験もあった。逆に降格争いなど難しい時も。うまくいっている時にチームを応援することが簡単でも。チームが本当にファンのサポートが必要な時、毎週日曜日にスタジアムが満員になるのは、ビルバオだけだ。」と語っている。文字通り、地域を代表するクラブであるからこその結束力の高さがある。

 

忠誠心

 結束力の強さはまた、選手のクラブに対する忠誠心も成長させる。アトレティック・ビルバオに所属する選手の少なくない人数は、ビッグクラブに移籍するチャンスを持ちながらもチームに残る決断をすることが少なくない。

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 ホセバ・エチェベリアは、レアルマドリードへの移籍の機会を拒否しながらも、その決断に後悔はないと語っている。「お金やヨーロッパのコンペティションで戦うことは大切だが、自らの未来について考えなければいけない。2回移籍する機会があったが、どちらでも残ることを決断した。引退して10年たつがこのクラブに15年所属したことを誇りに思っている。」

 アトレティック・クルブの特別なアイデンティティの持つ魅力は時代とともに輝きを増している。そのアイデンティティと共にあることを選ぶ選手が多いことは何ら疑問ではないだろう。

 移籍することなくクラブと苦楽を共にしようとする選手の姿やファンとの関係性を見ると、クラブチームながらどこか代表チームに近い雰囲気を感じる。

 

育成システム

アトレティック・クルブのもう一つの特徴として、その育成があげられる。

 「属地主義」を掲げる以上選手の育成はクラブにとって、最重要課題である。アトレティック・ビルバオが長く成功している背景には、その選手育成のシステムがある。地域のクラブと提携を結びスカウト網を形成することで地域の才能を漏らすことなく発掘している。また、同じくバスク州に本拠地を置くクラブ、CDバスコニアを買収しサードチームとして育成に利用している。

 その、育成システムから生まれた選手を紹介する。

アカデミー/選手

ケパ・アリサバラガ

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当時のGK最高額8000万ユーロでチェルシーへ。

アイメリック・ラポルト

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当時のクラブ最高額6500万ユーロでマンチェスターシティへ。

ハビ・マルティネス

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当時オサスナの下部組織にいたマルティネスと契約。

当時のブンデスリーガ最高額4000万ユーロでバイエルンへ。

 

アカデミーに所属していたわけではないが、マンチェスターユナイテッドパリサンジェルマンで活躍した「アンデル・エレーラ」もアトレティック・クルブ出身である。

アンデル・エレーラ

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22歳の時、レアルサラゴサから加入。3年後契約解除金3600万ユーロを支払いマンチェスターユナイテッドへ。

(Transfermarket.com)

 

現在とこれから

 今季のアトレティック・クルブは昨季8位以上。同時に、チャンピオンズリーグヨーロッパリーグ等、欧州大会への出場権獲得が期待されている。

 

現在の選手

イケル・ムニアイン

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 チームのキャプテンで10番であるこの選手はトップ下や左サイドハーフを主戦場としている。16歳でトップチームデビューを果たしたムニアインは15シーズン546試合(2023/11/04)に出場してきた。クラブを代表する「ワンクラブマン」であり、クラブ歴代2位の出場数を誇る。高い足元の技術と高精度のパスを武器に結果を残してきた。ボールを持てば、何かを起こしてくれると期待を持てる選手である。ただ、今シーズンは、後述する若手「オイアン・サンセ」の台頭により出場時間を減らしている。30歳ながらも、まだまだこの選手の見せるプレーに期待したい。

ニコ・ウィリアムズ

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 今シーズン既に、1ゴール4アシストを記録しているこの選手は両ウィンでのプレーを得意としている。21歳ながらも、スペインA代表でも既にデビューを果たし、昨年のWCでもプレーした。スピードを生かしたドリブルでの突破を得意としており、兄イニャキ・ウィリアムズと共にチームの攻撃を牽引する。

イニャキ・ウィリアムズ

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 29歳のこのガーナ代表フォワードは既に、5ゴール3アシストを記録しチーム内最多得点を記録している。2012年に下部組織に入団し、トップチームでは10シーズン394試合に出場している。この選手は2016年4月から2023年1月まで7年に渡り251試合連続で試合に出場し続けていた。身体能力の高さを生かすプレースタイルながらも、けがをすることもなくまた、レッドカードやイエローカードの累積で欠場することもなかった。どの監督も彼を重用し、それだけ結果を残してきた。

オイアン・サンセ

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 23歳のミッドフィルダーはその才能を遺憾なく発揮している。ここまで、3ゴール2アシストを記録しており、試合あたり1.5本のキーパスを記録している(WhoScored.com)。188cmという大柄な体格ながらも足元の技術が高く。決定的なチャンスを演出しながらも、自ら得点できる決定力も持っている。スペイン代表でのデビューも最近しているこれから注目の選手である(背番号はなぜか2番)。

 

終わりに

 今シーズンはジローナが予想外の活躍を見せているだけに、どのクラブの活躍もインパクトに欠ける。それでも、バルセロナレアルマドリードアトレティコマドリードの3強に並ぶ5位につけている(2023/11/15)。このクラブの哲学や歴史を知ることで、ラリーガの観戦に楽しみが増えればうれしい。アトレティック・クルブは代表ウィークを挟んだ後、首位ジローナとアウェイで対戦する。

鎌田大地が所属!セリエA「ラツィオ」チーム紹介

 

s.s Lazio

 

 永遠の都ローマ。イタリアの首都であり、ヨーロッパ有数の都市。その影響力はサッカー界でも、同様であり、その名前を冠する「A.S. Roma」は中田英寿永久欠番10番トッティが一時代を築いた。ただ、ローマを本拠地とするクラブは「ローマ」だけではない。それが、ローマを州都とするラツィオ州の名を冠する「SSラツィオ」である。最近、日本代表MF鎌田大地が加入したことでも話題となったこのクラブを紹介する。

セリエAがサッカー界を席捲し、築いた黄金期は過去のものであり、長い低迷期を迎えていた。ところが、近年セリエA復権の兆しがある。ユベントス一強の時代が終わり、ナポリを筆頭にACミランインテルセリエAだけでなく、チャンピオンズリーグでも結果を残した。そんな中、ラツィオヨーロッパリーグでは早々に敗退したもののセリエAでは、ミラノ勢を抑えナポリに次ぐ2位に入っている。

特徴

ラツィオの特徴はなんと言っても、そのパスサッカーだろう。レイオフ(縦パスを受けた選手がワンタッチで他の選手に落とす行為)を多用する縦にも早いスタイルのパスサッカーは効果的であるだけでなく、見ていて非常に楽しいものである。このスタイルはラツィオの現監督マウリツィオ・サッリの特徴であり、しばしば「サッリボール」と呼ばれている。

www.youtube.com

一時期は監督との確執を報じられながらも、見事にマッチした10番「ルイス・アルベルト」、エース「チーロ・インモービレ」、ウィング「マッティア・ザッカ―ニ」監督と選手を詳しくフォーカスしていく。

監督・マウリツィオ・サッリ

Sky Sports

 現監督のマウリツィオ・サッリはラツィオの監督に就任するまで、「ユベントス」「チェルシー」「ナポリ」とビッグクラブを渡り歩いてきた。ユベントスセリエA優勝、チェルシーで18/19シーズン、ヨーロッパリーグ優勝。中でも2015年から2018年まで率いていたナポリは、「欧州で最も美しいサッカー」と評されるほどの完成度を誇っていた。インシーニェ、メルテンスカジェホンのスリートップ。ハムシクジョルジーニョ、アランのスリーセンターによるテンポの良いパスサッカーと高い得点力による破壊力は世界中の人々を魅了した。しかし最もセリエA優勝に近づいたシーズンでさえ、惜しくもユベントスに競り負け、タイトルを獲得するには至らなかった。

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そんな、マウリツィオ・サッリだが、ラツィオではナポリ時代も愛用していた[4-3-3]を使用している。昨シーズンは、前線に左から順に、ザッカーニ、インモービレ、フェリペ・アンデルソン。中盤には、ルイス・アルベルト、カタルディ、セルゲイ・ミリンコビッチサビッチ。最終ラインは、ヒサイ、ロマニョーリ、カザーレ、マルシッチ。キーパーにプロベデルという並びだった。

今シーズンはセルゲイ・ミリンコビッチサビッチがサウジアラビアリーグに移籍したことによってできた穴に鎌田大地やマッテオ・ゲンドゥージを補強する形になった。

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昨シーズン、チーム3位である9得点、高い身長を生かしたターゲットとしての役割、高い足元の技術。セルゲイ・ミリンコビッチサビッチがチームにもたらしていた影響の高さ故に、鎌田に対する期待は高いものだろう。現時点では、1ゴール、1アシスト今後も活躍が期待される。

前述したように、サッリの戦術では、レイオフを多用し縦にも早いサッカーを展開する。選手のほとんどはワンタッチやツータッチなどの少ないタッチ数でボールを回し、テンポのいいボール保持をする。サッリ自身も、SKYSPORTSのインタビューで自身のスタイルについて聞かれた際「早いスピードのボールで行うボールポゼッション」と回答している。   

チェルシー監督時代にアシスタントコーチを務めたジャン・フランコ・ゾラ(元イタリア代表フォワード)は、インタビューでサッリのサッカー「オーケストラ」に例えている。誰もが自分の役割があり、全員がその役割を全うして初めて機能するという。それぞれのポジションに明確な役割があり、少ないタッチ数という制約もある。

つまるところ、見る分には非常に面白いが、選手としては適応する難易度が高い。鎌田選手の適応にも長い目で見ていく必要があるかもしれない。

 

選手

ルイス・アルベルト

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 このチームの王様と言ったらこの選手だろう。左インサイドハーフを主戦場し、その位置から精度の高い長短のパスを供給する。「ザッカ―ニ」「インモービレ」への精度の高いスルーパスによって、多くのチャンスを演出している。また、パスだけでなく高精度のミドルシュートも魅力的である。所謂、左45度と呼ばれるような、ペナルティエリアの左角あたりからのシュートも得意である。この選手の活躍がセリエAでも、チャンピオンズリーグでも重要になるだろう。

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チーロ・インモービレ 

El Arte Del Futbol

 言わずと知れたエース「インモービレ」。セリエAでは、4度の得点王を獲得しているこの選手はラツィオの攻撃を長い間けん引してきた。昨シーズンも、セリエAではチームトップとなる12ゴールを挙げている。高い決定力を武器にボックス内で結果を出してきたエースだが、今シーズンは怪我の影響もあり、ここまで9試合で2ゴールと思ったような結果を残せていない。33歳という年齢、そしてサウジアラビアリーグへの移籍の噂、ラツィオでの残された時間は少なくなってきている。だからこそ、要注目だ。

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マッティア・ザッカーニ 

Lega Serie A

 昨シーズン、最も活躍した選手と言えば、この選手があげられるだろう。リーグ戦チーム2位の10ゴールを記録した高い決定力。チーム最多のドリブル成功数を記録し、左サイドからのドリブルによる打開はチームに新たなオプションをもたらした。ゴール前に切り込んでからのゴール右下、隅への巻いたシュートが特徴的であり、今シーズンも期待できるだろう。

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最後に

 現在、鎌田は移籍したものの思うように出場時間を得られていない。ただ、前述したように、ラツィオは適応に時間のかかるチームであり、現状はある意味当たり前のことでもあるように思える。早急な活躍や結果を求めるのではなく、チームの魅力的な面に目を向けて気長に待ってみてはどうだろう。

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