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シティやトッテナムに勝利!「ウルブズ」について

 ウルヴァ―ハンプトン・ワンダラーズ通称、「ウルブズ」。プレミアリーグに所属するこのクラブは12月現在13位に位置付けている。順位だけ聞くと微妙なチームかもしれないが、試合ごとに見るとマンチェスターシティに2-1で勝利、トッテナムにも2-1で勝利、ニューキャッスルに2-2で引き分けと目に見える結果を残している。それ以上に「ウルブズ」の注目点は今シーズン始まる前の状態にあった。

 今夏の移籍市場で「ウルブズ」は自クラブファンのみならず、世界中のサッカーファンを驚かせることになった。それが、チームの象徴26歳ルベン・ネベスのサウジアラビアリーグへの移籍である。クリスティアーノ・ロナウドを皮切りにサウジアラビアリーグへの移籍がトレンドになったが、26歳のネヴェスのように全盛期の選手が移籍することは珍しかった。バルセロナや他のプレミアリーグのチームクラブへの移籍の可能性が報じられながらも、トップレベルとは言えないサウジアラビアへの移籍は大きな波紋を呼んだ。

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 チームの象徴だっただけにネヴェスの移籍はクラブにとって打撃だったが、放出しなければならない事情がウルブズにはあった。スポンサー企業の業績不振、そしてFFP(ファイナンシャル・フェア・プレー規則)の問題である。サッカークラブの財政健全化を目的としたこの規則では、移籍金と人件費などの支出が移籍金や入場料テレビ放映権料、大会賞金などのサッカーで得た収入を上回ることを禁じている。つまるところ、得た金額以上を使ってはいけないという話なのだがウルブズはこの規則に抵触しかけていた。そのため、選手売却によるお金が必要であり、ネヴェスを売却せざるを得なかったわけである。さらに、ネヴェスを売却したからと言ってさらなる大きな補強は期待できず、このことも理由のひとつになり、前任監督であったファン・ロペテギの退任が発表された。プレミアリーグ開幕の5日前のことだった。後任には、昨シーズンボーンマスを率いていたガリー・オニールが就任。ところが、開幕寸前には中心選手だったマテウス・ヌネスもマンチェスターシティに移籍することになった。

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 つまり、ウルブズは象徴的な選手を失い、しかも大きな補強はなく、開幕寸前に監督を入れ替えてシーズンをスタートさせた。昨シーズンでさえ、なんとか13位に落ち着いたもののゴール数は全クラブ中最下位であり(31ゴール)、チーム自体も問題を抱えていた。

 そんな状態でスタートしたウルブズだが、初戦マンチェスターユナイテッド戦は驚きに満ちたものになった。結果を見ると0-1での敗北だったわけだが、シュート数を始めチャンスメイクの部分でユナイテッドを上回った。特にフォワード、マテウス・クーニャなどの活躍はすさまじく一人で局面を打開してからのチャンスメイクは大きな衝撃を与えた。さらに、試合終盤にはユナイテッドGKオナナによるペナルティーエリア内でのファール取り逃しもあった(後日、プレミアリーグプロ審判協会が誤った判断だったと謝罪)。そこから、ブライトンなどに敗れつつも前述した強豪相手にも、勝ち点をつかみとって来た。明らかに厳しそうな状況から今の位置にいるのには、様々な要因があるだろうが、選手の活躍を挙げたい。

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 今シーズンのウルブズでは、特に二人の選手の名前がよくあげられる。それが、FWペドロネトと同じくFWのファン・ヒチャンだ。ペドロネトは現時点でのリーグアシスト数トップの7アシストを挙げており、ファン・ヒチャンはリーグ6位タイとなる7ゴールを挙げている。ネトは昨シーズン18試合に出場して0ゴール1アシスト、ヒ・チャンは27試合に出場して3ゴール1アシストという記録だった。この二人の活躍がウルブズを支えていると言っても過言ではないだろう。

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 では、これからのウルブズはどうなるのだろうか

 そのために近年の歴史を振り返る。2016年ウルブズはトップチームへの道のりを歩み始めた。それまでは2部で低迷していたウルブズが中国の投資グループ「復星集団」の企業「復星国際」によって買収された。当時の中国では、政府主導のサッカー強化策の動きで多くの金がサッカーに動いていた。中国クラブの選手の爆買いと共に、中国資本による欧州サッカークラブの買収も相次いだ。インテルミランACミランのミラノ勢、ニース、エスパニョール、サウサンプトンなどが中国企業や投資グループに買収された。ウルブズの買収もこの流れの中の出来事だったわけだ。

 このクラブ買収で大きな役割を果たした人物がいる。それが、クリスティアーノ・ロナウドジョゼ・モウリーニョを顧客に持つことでも、有名な代理人ジョルジ・メンデスである。“アドバイザー”として、ウルブズの移籍に関与することになったメンデスは多くの顧客をウルブズと契約させた。前述した、ルベン・ネベスだけでなく、2017年から監督に就任したヌーノ・エスピリト・サント。リバプールに羽ばたいていったディオゴ・ジョタ、現キーパーと前キーパー、ジョゼ・サーとルイ・パトリシオ、他にも、ジョアン・モウティーニョ、ネルソン・セメド、アダマ・トラオレ、ゴンサロ・ゲデスなどもすべて、メンデスの顧客だ。ポルトガル人でポルトガルを中心に強力なネットワークを持つメンデスが移籍に関わることで、ウルブズは大きな成長を遂げる事になった。一時期、本当にイングランドのクラブかと思うほどポルトガル人がチームに多かったのはこういった背景があった。

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 クラブが買収され、大型移籍によって戦力も大幅に強化されたウルブズは2017-2018シーズンにはチャンピオンシップ(2部リーグ)で優勝し、6年ぶりにプレミアリーグに帰って来た。

 そこで、ウルブズは次の計画に移行する。

 2020年スイスの名門グラスホッパー・クラブ・チューリッヒ(通称グラスホッパー)が香港の企業Champion Union HK Holdings Limitedによって買収される。この企業の会長を務めるジェニー・ワンはウルブズのオーナー復星国際の会長、郭広昌(クオクアンチャン)の妻である。つまり、ウルブズとグラスホッパーは共通のオーナーによって運営される形とになった。「マルチクラブオーナーシップ」と呼ばれるこのシステムは欧州トップリーグでは、多くのクラブによって取り入れられている。有名どこでは、マンチェスターシティを中心として形成されている「シティ・フットボール・グループ」があげられるだろう。今シーズンスペインでミラクルな活躍をしている「ジローナFC」、Jリーグの「横浜Fマリノス」など世界各国のクラブがマンチェスターシティとパートナーシップを結んでいる。共通のオーナーを持つことによって、クラブ間でのノウハウの共有、クラブ間での選手移籍後の管理のしやすさなど恩恵は計り知れない。「ジローナFC」や「横浜Fマリノス」の活躍の一因なのは、間違いないだろう。ウルブズもその恩恵を狙いに行く。

 グラスホッパーはウルブズと同じようにポルトガル人選手、そして地元のスイス人選手が多いが、アジア人選手も所属している。日本からは代表経験もある「川辺駿」「瀬古歩夢」中国人ディフェンダー「リ・ライ」韓国人フォワード「チョン・サンビン」などが所属してきた。実際に「川辺駿」はサンフレッチェ広島からグラスホッパーに2021年に移籍すると2022年にはウルブズに移籍した。残念ながら、出場機会を得ることなく2023-2024シーズンには、ベルギ―、スタンダール・リエージュに完全移籍することになった。

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 ベルギーやスイス、オーストリアのリーグはアジア出身の選手がより、高いレベルの欧州リーグに移籍する前に成長する環境として上手く機能していると言えるだろう。川辺は上手くいかなかったにしろ、南野拓実三苫薫やその他の日本人もビッグクラブ移籍前にこれらの国のクラブを経由していることは少なくない。南野は「レッドブル・ザルツブルク」で、三苫は「ユニオンSG」でプレーしていた。現在ウルブズで爆発しているファン・ヒチャンも南野と同じ「レッドブル・ザルツブルク」で活躍した後に欧州リーグに出てきた。新たな、ファン・ヒ・チャンを生み出すこと。つまるところ才能ある無名の選手を成長させ、トップリーグにいる自チームに送り出すことがこのクラブ役割だと言える。

 三苫薫が「ユニオンSG」で1年間プレーしたのには、実には他にも理由がある。それが、イギリスの労働許可証の問題である。詳しい説明は以下を参照してほしいが、簡単に言うと、代表やクラブでの出場時間によってポイントが与えられ、そのポイントが一定基準(15ポイント)以上でなければ労働許可証を得ることができない。Jリーグでの試合出場で得られるポイントが少なく、この基準が満たせないわけである(最近改定され、Jリーグのランクが上がった)。グラスホッパーには、この労働許可証が発給されない選手をしっかり管理でき成長させることができる場としての役割も持っている。ちなみに、三苫が1年間レンタル移籍していた「ユニオンSG」は現所属の「ブライトン」と同オーナーが保有するクラブである。また「レッドブル・ザルツブルク」も名前の通りレッドブルグループのクラブであり、他にも「RBライプツィヒ(ドイツ)」「リーフェリング(オーストラリア)」「ニューヨーク・レッドブルズアメリカ)」などのクラブを保有している。共通のオーナーが複数のクラブを保有する「マルチクラブオーナーシップ」はヨーロッパサッカーで普及し始めている。

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 では、話は戻りウルブズはこれからどうなるだろう。この勢いのままリーグ戦を戦い続けられれば去年よりも良い位置でシーズンを終えられるかもしれない。ただ、シーズンはまだ折り返し地点にも到達しておらず、先は長い。ペドロネトを含め、軽傷ながら負傷者が出始めている。毎年恒例、年末年始の過密日程なども考慮すれば、負傷者なしで切り抜けるのは相当厳しそうである。そこで、中心選手が負傷すれば、中々ヘビーな状況になるのは間違いないだろう。ここまで、説明したシステムも何かあったときに、すぐに救世主を呼んできてくれるようなものではない。もちろん、今のウルブズに救世主を呼んでくるような移籍面においての余裕なんてない。じわじわと厳しい現実が迫ってきている感じがしないでもないが、何が起こるかは正直分からない。

 きっと、どれだけ上手くいってもシーズンが終わった時、ウルブズはいい意味で話題に上がるような場所(悪い意味では分からないが)にはいないだろう。ファン・ヒチャンやペドロネト、マテウス・クーニャなどの活躍を始め、厳しい状況ながら、ウルブズの試合には、どこか惹かれるものがある。これからの進展に注目したい。

アスレティック・クルブ解説

ボスマン判決 

 1995年、サッカー界はそれまでと全く異なるものになった。12月15日欧州司法裁判所は後に「ボスマン判決」と呼ばれる判決を出した。これは、当時ベルギー2部のRFCリエージュに所属していた「ジャン・マルク・ボスマン」がヨーロッパサッカー連盟(UEFA)を相手取って起こした裁判である。事の発端はボスマンRFCリエージュとの契約が切れ、ボスマンが新たなチームと契約をしようとしたことにある。今でいうところのフリー移籍で、フランス2部USLダンケルクに移籍しようとしたボスマンだが、よく思わなかったRFCリエージュ側がボスマンの所有権を主張し移籍を阻止ようとした。当時のベルギー・フランスのサッカー協会のルールには、移籍金の支払いによる移籍規制条項が含まれおり、契約が満了しても選手の保有権はクラブにあり、クラブを通してしか選手は移籍することができなかった。つまるところ、契約が満了した選手を獲得する場合も引き続きクラブに移籍金を払う必要があった。

 結局、ボスマンに対して移籍金が払われることはなく移籍は頓挫し、選手登録もされず飼い殺しの状態になった。ボスマンはサッカー協会とRFCリエージュに所有権の破棄を求める訴えを起こし、勝訴。その後、フランスリーグ3部のチームに移籍した。

 ただ、これだけで話はとどまらず、ボスマンは元凶のヨーロッパサッカー連盟(UEFA)に対しても訴えを起こす。

その結果、簡単に言うと以下の2点が認められた。

  1. フリー移籍が可能。(契約が満了した選手の所有権をクラブが主張できない)
  2. EU加盟国出身選手に対しての外国人枠の撤廃。

 それ以前、欧州のリーグでは、契約できる外国人選手の数に制限があり、条件付きで5人までとされていた。その条件が撤廃されたことにより、ヨーロッパでの移籍が活性化した。資本のあるチームは有望な選手を各国から買い集め。逆に資本のないチームは選手を売らざる負えなくなっていた。フリー移籍が可能な以上、力関係は以前とは、逆になり選手が力を持つようになった。所属クラブが選手を引き留めようと契約更新を打診しても、今以上の高い給与を提示できるクラブには太刀打ちできず、移籍金の発生しないフリーで移籍されるならば移籍金目的の売却が残された手段になった。

 現に1995年欧州最大の大会をクライファートセードルフダーヴィッツファンデルサールなどを要し、優勝したオランダの名門アヤックスでさえ、その主力の多くを資本のあるクラブに引き抜かれ、1999年の夏には当時の主要メンバーは誰一人残っていなかった。

 それ以降、資本があるチームは各国から選手を買い集め強力な多国籍軍団を築く一方で資金がないクラブはその草刈り場となった。資金の差はチーム力の差に直結し、チーム力の差が資金力の差を広げた。今もその差は広がる一方である。

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(1995 アヤックス)

 

 

そんな中にも、時代の流れに逆らうチームもいた。

 

Piacenza Calcio 1919

 多くのクラブが外国人選手を入れ多国籍チームになる中、イタリアの「ピアチェンツァ・カルチョ」はイタリア人だけの純血主義を貫いていた。ただ、2001年に初の外国人を補強。そのまま、2003年にはセリエBに降格。2012年に破産。ルパ・ピアチェンツァSSDとして再出発することになった。

 

 ペップ・グアルディオラが率いた、バルセロナもサッカー界のグローバル化とは反対の道をたどったと言えるだろう。その圧倒的な実力がフォーカスされるが、そのメンバーも特別なものだった。グアルディオラは就任当初にそれまでチームの中心を担っていたスター選手「ロナウジーニョ」「デコ」「エトー」の放出を宣言、代わりにアカデミーの選手を多く起用した。

GKビクトール・バルデス、両CBプジョル、ピケ。左SB、ジョルディ・アルバ、中盤の三人ブスケツイニエスタ、シャビ。FWペドロ。そして、メッシ。

 バルセロナ「take the ball pass the ball」内で元バルセロナフォワード、アンリが「アヤックス以後、世界トップレベルでアカデミー出身の若手がこれほど活躍しているクラブはほとんどない」と語るように、チームはそういった面でも特別だった。

世界中の人に愛されているのには、このような理由もあるだろう。

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 ピアチェンツァ・カルチョは言わずもがな、バルサもアカデミーから有望な選手を輩出しつつも、ペップの時代ほど彼らを起用しない。どちらかというと、多国籍スターチームという方がしっくりくるのが現状だ。

 

アトレティック・クルブ

そんな中、純血主義とも言われる哲学を貫いているチームがスペインにはある。

 

athletic club

 それが「ロス・レオネス(ライオンたち)」の愛称で知られる「アトレティック・クルブ」(アトレティック・ビルバオともいう。)

伊藤文

 久保建英が所属する、レアル・ソシエダが本拠地を置くバスク州に同じく、本拠地を置くこのクラブはバスク出身の選手のみでチームを構成するという特徴的な哲学で有名である。

 このクラブは、その哲学からしばしば「バスク純血主義」と言われる。つまり、バスク地方の選手だけでチームを構成しているのである。厳密には「バスク属地主義」というのが正しく『バスク地方出身』「クラブのユースで育った選手」『バスク地方のクラブユースでのプレー経験がある選手』がクラブに入る権利を要す。

 

 驚くべきことに、限定的な選手のみで構成したクラブであるにもかかわらず、バルセロナレアルマドリードアトレティコマドリードに次ぐ4位のリーグ優勝回数を誇っている。また、バルセロナレアルマドリードと並び1部リーグからの降格を経験していない3クラブのうちの一つである。

 

 数々のインタビューで、アトレティック・クルブの強さの根底は結束力にあるという。同じ地域の選手のみで構成されるチームの結束力の高さは想像に難くない。だが、前述した「ピアチェンツァ・カルチョ」、他にも「レアル・ソシエダ」もバスク選抜の哲学を持ちつつも、1989年には放棄した。いくら結束力が高くても、トップレベルの力を維持し続けるのは容易ではないのは明らかだろう。それでも、今日までトップレベルでその哲学を貫くことができたのは、なぜだろうか。

 

特別な結束力の根底にある歴史

 1936スペイン。スペイン領モロッコのスペイン正規軍が共和国政府に対して、軍事クーデターを起こした。軍事政権樹立をもくろんでいた軍に対して、国民が反発。フランコ将軍率いる軍と共和国政府側の内戦の中、バスク政府は共和国政府側を選択する。1937年、マドリ―ドへの攻撃がうまくいっていなかった軍の標的はバスク地方を含む北部へ移る。ピカソの絵としても有名な「ゲルニカ」の無差別攻撃などバスクへの攻撃は熾烈さを増し、同年6月にバスク政府首都ビルバオが陥落。その後、1939年4月1日フランコによって、内線終戦と勝利宣言がなされた。終戦後のバスク地方は、フランコ陣営に弾圧されることになる。「バスク語の禁止」「バスク人の伝統の禁止」などが強制された。この際、チーム名もスペイン語の「アトレティコビルバオ」(Atletico Bilbao)に改名させられた。

 フランコ第二次世界大戦では、中立策を取り、戦後の47年以降は終身統領として権力を維持し、1975年に死去した。フランコの死をもって、再びバスクに自由が戻った。

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 キャプテンマークにも、使われているバスク州の旗もそれまで利用を許されていなかった。このような、歴史的な背景も高い結束力の一因なのは間違いないだろう。

 

家族に近いコミュニティ

 属地主義だからこそ、ファンと選手の距離が近く結束の強いコミュニティが形成されている。元アトレティック・クルブのホセバ・エチェベリアはThe Athleticのインタビューに対して、「チャンピオンズリーグ出場権の獲得など、いい経験もあった。逆に降格争いなど難しい時も。うまくいっている時にチームを応援することが簡単でも。チームが本当にファンのサポートが必要な時、毎週日曜日にスタジアムが満員になるのは、ビルバオだけだ。」と語っている。文字通り、地域を代表するクラブであるからこその結束力の高さがある。

 

忠誠心

 結束力の強さはまた、選手のクラブに対する忠誠心も成長させる。アトレティック・ビルバオに所属する選手の少なくない人数は、ビッグクラブに移籍するチャンスを持ちながらもチームに残る決断をすることが少なくない。

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 ホセバ・エチェベリアは、レアルマドリードへの移籍の機会を拒否しながらも、その決断に後悔はないと語っている。「お金やヨーロッパのコンペティションで戦うことは大切だが、自らの未来について考えなければいけない。2回移籍する機会があったが、どちらでも残ることを決断した。引退して10年たつがこのクラブに15年所属したことを誇りに思っている。」

 アトレティック・クルブの特別なアイデンティティの持つ魅力は時代とともに輝きを増している。そのアイデンティティと共にあることを選ぶ選手が多いことは何ら疑問ではないだろう。

 移籍することなくクラブと苦楽を共にしようとする選手の姿やファンとの関係性を見ると、クラブチームながらどこか代表チームに近い雰囲気を感じる。

 

育成システム

アトレティック・クルブのもう一つの特徴として、その育成があげられる。

 「属地主義」を掲げる以上選手の育成はクラブにとって、最重要課題である。アトレティック・ビルバオが長く成功している背景には、その選手育成のシステムがある。地域のクラブと提携を結びスカウト網を形成することで地域の才能を漏らすことなく発掘している。また、同じくバスク州に本拠地を置くクラブ、CDバスコニアを買収しサードチームとして育成に利用している。

 その、育成システムから生まれた選手を紹介する。

アカデミー/選手

ケパ・アリサバラガ

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当時のGK最高額8000万ユーロでチェルシーへ。

アイメリック・ラポルト

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当時のクラブ最高額6500万ユーロでマンチェスターシティへ。

ハビ・マルティネス

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当時オサスナの下部組織にいたマルティネスと契約。

当時のブンデスリーガ最高額4000万ユーロでバイエルンへ。

 

アカデミーに所属していたわけではないが、マンチェスターユナイテッドパリサンジェルマンで活躍した「アンデル・エレーラ」もアトレティック・クルブ出身である。

アンデル・エレーラ

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22歳の時、レアルサラゴサから加入。3年後契約解除金3600万ユーロを支払いマンチェスターユナイテッドへ。

(Transfermarket.com)

 

現在とこれから

 今季のアトレティック・クルブは昨季8位以上。同時に、チャンピオンズリーグヨーロッパリーグ等、欧州大会への出場権獲得が期待されている。

 

現在の選手

イケル・ムニアイン

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 チームのキャプテンで10番であるこの選手はトップ下や左サイドハーフを主戦場としている。16歳でトップチームデビューを果たしたムニアインは15シーズン546試合(2023/11/04)に出場してきた。クラブを代表する「ワンクラブマン」であり、クラブ歴代2位の出場数を誇る。高い足元の技術と高精度のパスを武器に結果を残してきた。ボールを持てば、何かを起こしてくれると期待を持てる選手である。ただ、今シーズンは、後述する若手「オイアン・サンセ」の台頭により出場時間を減らしている。30歳ながらも、まだまだこの選手の見せるプレーに期待したい。

ニコ・ウィリアムズ

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 今シーズン既に、1ゴール4アシストを記録しているこの選手は両ウィンでのプレーを得意としている。21歳ながらも、スペインA代表でも既にデビューを果たし、昨年のWCでもプレーした。スピードを生かしたドリブルでの突破を得意としており、兄イニャキ・ウィリアムズと共にチームの攻撃を牽引する。

イニャキ・ウィリアムズ

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 29歳のこのガーナ代表フォワードは既に、5ゴール3アシストを記録しチーム内最多得点を記録している。2012年に下部組織に入団し、トップチームでは10シーズン394試合に出場している。この選手は2016年4月から2023年1月まで7年に渡り251試合連続で試合に出場し続けていた。身体能力の高さを生かすプレースタイルながらも、けがをすることもなくまた、レッドカードやイエローカードの累積で欠場することもなかった。どの監督も彼を重用し、それだけ結果を残してきた。

オイアン・サンセ

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 23歳のミッドフィルダーはその才能を遺憾なく発揮している。ここまで、3ゴール2アシストを記録しており、試合あたり1.5本のキーパスを記録している(WhoScored.com)。188cmという大柄な体格ながらも足元の技術が高く。決定的なチャンスを演出しながらも、自ら得点できる決定力も持っている。スペイン代表でのデビューも最近しているこれから注目の選手である(背番号はなぜか2番)。

 

終わりに

 今シーズンはジローナが予想外の活躍を見せているだけに、どのクラブの活躍もインパクトに欠ける。それでも、バルセロナレアルマドリードアトレティコマドリードの3強に並ぶ5位につけている(2023/11/15)。このクラブの哲学や歴史を知ることで、ラリーガの観戦に楽しみが増えればうれしい。アトレティック・クルブは代表ウィークを挟んだ後、首位ジローナとアウェイで対戦する。

鎌田大地が所属!セリエA「ラツィオ」チーム紹介

 

s.s Lazio

 

 永遠の都ローマ。イタリアの首都であり、ヨーロッパ有数の都市。その影響力はサッカー界でも、同様であり、その名前を冠する「A.S. Roma」は中田英寿永久欠番10番トッティが一時代を築いた。ただ、ローマを本拠地とするクラブは「ローマ」だけではない。それが、ローマを州都とするラツィオ州の名を冠する「SSラツィオ」である。最近、日本代表MF鎌田大地が加入したことでも話題となったこのクラブを紹介する。

セリエAがサッカー界を席捲し、築いた黄金期は過去のものであり、長い低迷期を迎えていた。ところが、近年セリエA復権の兆しがある。ユベントス一強の時代が終わり、ナポリを筆頭にACミランインテルセリエAだけでなく、チャンピオンズリーグでも結果を残した。そんな中、ラツィオヨーロッパリーグでは早々に敗退したもののセリエAでは、ミラノ勢を抑えナポリに次ぐ2位に入っている。

特徴

ラツィオの特徴はなんと言っても、そのパスサッカーだろう。レイオフ(縦パスを受けた選手がワンタッチで他の選手に落とす行為)を多用する縦にも早いスタイルのパスサッカーは効果的であるだけでなく、見ていて非常に楽しいものである。このスタイルはラツィオの現監督マウリツィオ・サッリの特徴であり、しばしば「サッリボール」と呼ばれている。

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一時期は監督との確執を報じられながらも、見事にマッチした10番「ルイス・アルベルト」、エース「チーロ・インモービレ」、ウィング「マッティア・ザッカ―ニ」監督と選手を詳しくフォーカスしていく。

監督・マウリツィオ・サッリ

Sky Sports

 現監督のマウリツィオ・サッリはラツィオの監督に就任するまで、「ユベントス」「チェルシー」「ナポリ」とビッグクラブを渡り歩いてきた。ユベントスセリエA優勝、チェルシーで18/19シーズン、ヨーロッパリーグ優勝。中でも2015年から2018年まで率いていたナポリは、「欧州で最も美しいサッカー」と評されるほどの完成度を誇っていた。インシーニェ、メルテンスカジェホンのスリートップ。ハムシクジョルジーニョ、アランのスリーセンターによるテンポの良いパスサッカーと高い得点力による破壊力は世界中の人々を魅了した。しかし最もセリエA優勝に近づいたシーズンでさえ、惜しくもユベントスに競り負け、タイトルを獲得するには至らなかった。

Schlägt Neapels Super-Offensive auch gegen Florenz zu? | Goal.com  Deutschland

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そんな、マウリツィオ・サッリだが、ラツィオではナポリ時代も愛用していた[4-3-3]を使用している。昨シーズンは、前線に左から順に、ザッカーニ、インモービレ、フェリペ・アンデルソン。中盤には、ルイス・アルベルト、カタルディ、セルゲイ・ミリンコビッチサビッチ。最終ラインは、ヒサイ、ロマニョーリ、カザーレ、マルシッチ。キーパーにプロベデルという並びだった。

今シーズンはセルゲイ・ミリンコビッチサビッチがサウジアラビアリーグに移籍したことによってできた穴に鎌田大地やマッテオ・ゲンドゥージを補強する形になった。

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昨シーズン、チーム3位である9得点、高い身長を生かしたターゲットとしての役割、高い足元の技術。セルゲイ・ミリンコビッチサビッチがチームにもたらしていた影響の高さ故に、鎌田に対する期待は高いものだろう。現時点では、1ゴール、1アシスト今後も活躍が期待される。

前述したように、サッリの戦術では、レイオフを多用し縦にも早いサッカーを展開する。選手のほとんどはワンタッチやツータッチなどの少ないタッチ数でボールを回し、テンポのいいボール保持をする。サッリ自身も、SKYSPORTSのインタビューで自身のスタイルについて聞かれた際「早いスピードのボールで行うボールポゼッション」と回答している。   

チェルシー監督時代にアシスタントコーチを務めたジャン・フランコ・ゾラ(元イタリア代表フォワード)は、インタビューでサッリのサッカー「オーケストラ」に例えている。誰もが自分の役割があり、全員がその役割を全うして初めて機能するという。それぞれのポジションに明確な役割があり、少ないタッチ数という制約もある。

つまるところ、見る分には非常に面白いが、選手としては適応する難易度が高い。鎌田選手の適応にも長い目で見ていく必要があるかもしれない。

 

選手

ルイス・アルベルト

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 このチームの王様と言ったらこの選手だろう。左インサイドハーフを主戦場し、その位置から精度の高い長短のパスを供給する。「ザッカ―ニ」「インモービレ」への精度の高いスルーパスによって、多くのチャンスを演出している。また、パスだけでなく高精度のミドルシュートも魅力的である。所謂、左45度と呼ばれるような、ペナルティエリアの左角あたりからのシュートも得意である。この選手の活躍がセリエAでも、チャンピオンズリーグでも重要になるだろう。

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チーロ・インモービレ 

El Arte Del Futbol

 言わずと知れたエース「インモービレ」。セリエAでは、4度の得点王を獲得しているこの選手はラツィオの攻撃を長い間けん引してきた。昨シーズンも、セリエAではチームトップとなる12ゴールを挙げている。高い決定力を武器にボックス内で結果を出してきたエースだが、今シーズンは怪我の影響もあり、ここまで9試合で2ゴールと思ったような結果を残せていない。33歳という年齢、そしてサウジアラビアリーグへの移籍の噂、ラツィオでの残された時間は少なくなってきている。だからこそ、要注目だ。

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マッティア・ザッカーニ 

Lega Serie A

 昨シーズン、最も活躍した選手と言えば、この選手があげられるだろう。リーグ戦チーム2位の10ゴールを記録した高い決定力。チーム最多のドリブル成功数を記録し、左サイドからのドリブルによる打開はチームに新たなオプションをもたらした。ゴール前に切り込んでからのゴール右下、隅への巻いたシュートが特徴的であり、今シーズンも期待できるだろう。

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最後に

 現在、鎌田は移籍したものの思うように出場時間を得られていない。ただ、前述したように、ラツィオは適応に時間のかかるチームであり、現状はある意味当たり前のことでもあるように思える。早急な活躍や結果を求めるのではなく、チームの魅力的な面に目を向けて気長に待ってみてはどうだろう。

サッカー漫画「カテナチオ」は面白い?漫画紹介

週刊ヤングジャンプ


カテナチオ」 漫画紹介

 「アオアシ」や「ブルーロック」最近人気を博しているこのジャンルに新たな作品が生まれた。

 それが、「カテナチオ」だ。週刊ヤングジャンプに連載中のこの作品は、これまでのサッカー漫画とは一味違う。タイトルの「カテナチオ」というのは、イタリア語で門に鍵をかける横木である「閂(かんぬき)」を意味する。サッカーでは、強固な守備やそれを特徴とする戦術のことを指す。察しのいい人は既に気づいていると思うが、この漫画はサッカーにおける守備の要「センターバック」に焦点を挙げた漫画である。「ブルーロック」がフォワードに焦点を当てたように、サッカー漫画に限らずスポーツ漫画は花形の選手にフォーカスしやすい。「アオアシ」がサイドバックに注目した作品ということで話題になったが、言ってしまえば地味なポジションであるセンターバックもフォーカスされるようになった。

 そこで誰もが思うのが「果たして、そんな地味なポジションにフォーカスした漫画おもしろいのだろうか?」ということだと思う。はっきり言って、面白い。ただ、同時に人を選ぶ作品でもあると思う。というのも、この作品には「ブルーロック」のような、スカッとするようなゴールシーンはないし、あっと驚くようなフェイントも出てこない。あるのは、地味でも泥臭く挑戦し続ける主人公の姿と、だからこそ得られる胸が熱くなるような感情である。

「才能とは、美しさだ。才能のない俺は、醜い。それでいい。」(1巻 1ページ)

冒頭の文が見事に作品を表していると思う。

 

あらすじ

 この作品は主人公の「嵐木八咫郎(あらき やたろう)」の高校最後の大会からはじまる。プロを目指す八咫郎としては、最後のアピールのチャンスであり、全国大会出場を目指している。そんな中、決勝戦を前にチームメイトとの言い合いが原因で監督から、決勝戦は普段プレーするトップ下(所謂、司令塔)ではなく、センターバックで出場させることを告げられる。決勝戦の相手は、日本ユース世代のエースを擁する強豪校であり、接戦の末敗れてしまう。八咫郎は、親との「高校卒業までにプロになれなければ、サッカーを辞めて進学」という約束を守り、勉強に専念することになった。翌日、もうプロになることは叶わないと知りつつも、日課の朝のトレーニングをいつの間にかやっていた八咫郎。夢破れた悔しさと後悔で崩れ落ちたところに、昨日の試合を見ていたイタリアプロクラブのスカウトがやってくる。その人物にチームに八咫郎が必要と言われ、イタリアでの挑戦が始まる。全国大会出場に出場できる実力もない八咫郎がいきなり、トップチームに加入できるわけもなく、下部チームから挑戦していくことになる。監督に必要ないと拒絶されるなど困難がありながらも地道にヨーロッパの頂点を目指していく。

 

魅力的な主人公

 この作品の魅力の一つは八咫郎のキャラクターだろう。主人公が魅力的というのは、当たり前といえば、当たり前なのだが、非常に引き込まれるキャラクターである。八咫郎は少年漫画的な熱いキャラクターではなく、むしろドライな方である。ただ、その性格を一言で言えば、「全力」な性格である。誰もが自分の中途半端で終わった活動、部活や勉強、趣味でも仕事でも、それを本気でやればよかったと後悔し、自分が本気で行動した姿を想像したことはないだろうか。そんな姿が主人公八咫郎である。何度、セレクションや練習会で不合格を突き付けられても諦めず。高校生とは思えないほど体を鍛え、プロになった将来を見据え外国語の勉強もする。一人でも、朝でも夜でもトレーニングを行い、試合の分析も欠かさない。高校サッカーでも関係なく、勝てない相手はファウルをしてでも止める。勝つために必要なことは、すべて狂気と言えるほど本気で行う。そんなキャラクターが本作の主人公である。

 これもまた、当たり前と言えば、当たり前なのだがこのキャラクターとセンターバックというポジションが非常に合う。作中でも、言及されるがセンターバックは特に粘り強く守備をすることが求められる。場合にもよるが、一発でボールを取りに行くのではなく、確実に奪取できるまで、とにかく粘る。華のあるフォワードとは対照的に醜く粘る。勝利への執着心からくる精神力と集中力を武器に凡才の主人公が才能ある選手に挑んでいく姿には今までにない面白さがある。

「自分より優れた相手に勝つ力」について

「ファウル上等で相手にしがみついて…全員が心の底から敗北を拒絶した。何を犠牲にしても、勝つという感情をチームが共有していた。」(2巻 142ページ)

 

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制定日:2023年10月6日

 

元プロギャンブラーがオーナー? 「マネーボール」ブレントフォードF.Cチーム紹介

 22/23シーズン、王者マンチェスターシティにシーズンダブル。直近の2年で上位勢ビッグシックス(マンチェスターユナイテッドマンチェスターシティ・アーセナルチェルシーリバプールトッテナム)すべてに勝利。エース、イヴァン・トニーの賭博行為による出場停止。度々、サッカー界の話題に上がるブレントフォード、ロンドンに拠点を置くこのクラブは20/21シーズンに昇格するまで、74年という長い間プレミアリーグに所属したことはなかった。そんなチームが昇格して2年、確かな結果を残してきている。数年前まで、2部や3部リーグ常連だったチームがいかにして、ここまで来たのだろうか。

 ブレントフォードF.Cの成功を、サッカーベティングで莫大な利益を上げクラブを買収した元プロギャンブラーの現オーナー、マシュー・ベンハム。2020年まで、ブレントフォードF.Cの共同ディレクターだったラスムス・アンカーセン。彼らが用いた映画「マニーボール」のような特徴的な手法。そして、現場で結果を残してきた、優秀な監督と選手たち。それらに触れながら紹介していきたいと思う。プレミアリーグを見始めたばかりで、まだ応援するチームがまだない人。チームの興味深いバックグランドを知りたいという人。ぜひ、最後まで読んでほしい。

1.元プロギャンブラーのオーナー、マシュー・ベンハムについて

2.ブレントフォードが用いった戦略

3.マネーボール」ってなに?

4.育成システム

5.選手・監督

6.最後に

 

元プロギャンブラーのオーナー、マシュー・ベンハムについて

SportsPro media

 ブレントフォードF.Cが現オーナー、マシュー・ベンハムに買収されたのは2012年のことだった。当時のブレントフォードはEFLリーグワン(イングランドの三部リーグ)に昇格したものの結果を残せず、中位あたりを彷徨っていた。ところが、ベンハムがオーナーになった一年目、いきなりリーグ3位。惜しくも、プレーオフで惜しくも昇格を逃すものの翌年、2位でシーズンを終え、EFLチャンピオンシップ(イングランド2部リーグ)へ自動昇格した。(EFLチャンピオンシップ・EFLリーグワンでは、1位2位が自動昇格、3位-6位がプレーオフに進出し、ホーム・アウェイで対戦し1チームが昇格する)。

 それから、7シーズン後、遂にプレミアリーグに昇格する。74年ぶりの昇格を果たした背景には、他のクラブとは異なったアプローチ、特にオーナーのマシュー・ベンハムが持ち込んだデータを用いたアプローチが欠かせなかった。

 オックスフォード大学から、金融業界、スポーツベッティング業界という経歴を持つマシュー・ベンハム。前述したように、ブレントフォードの躍進には、彼が持ち込んだデータを用いたアプローチが大きいな役割を果たした。例えば、xg(ゴール期待値)などが有名だろう。

 ただ、このアプローチはすぐにクラブに認められたわけではなかった。そこで、ベンハムは新たなクラブを購入することを決断する。それがデンマークのクラブ”FCミッティラン”だ。(ラスムス・アンカーセンが10代のころ支持していたクラブだそう)2014にベンハムによって、買収されたFCミッティラン。当時、倒産仕掛けていたFCミッティランが1年でデンマークスーペルリーガのトロフィーを掲げるまでになった。このFCミッティランで試した内容を逆輸入する形で、ブレントフォードプレミアリーグに近づいていく。

 

ブレントフォードが用いった戦略

 元々の規模の大きさが違うビッククラブとその他のクラブ。最近、新オーナーが就任したチェルシーが使った移籍金を見れば、わかるようにクラブ間の差は埋められないほどに広がっている。もちろん、ブレントフォードのようなチームは上位のチームのように高い移籍金を利用することはできない。そこで、ブレントフォードは他のクラブとは別の道を行くことに活路を見出した。Bleacher Reportのインタビューに対して、元共同ディレクターのラスムス・アンカーセンは以下のように語っている。

ダビデゴリアテに勝つためには、彼とは異なる武器が必要だった。同じ武器で戦えば、負けていただろう。同じように、ブレントフォードには他とは異なる武器が必要だった。」

そこで、見出した武器がデータを用いたアプローチであり、特徴的な育成組織の作成だった。特にデータを用いたアプローチは「プレミアリーグマネーボール」と呼ばれ、ブレントフォードを有名にする。

 

マネーボール」ってなに?

ソニーピクチャーズ

 資金間の格差に苦しむ貧乏なメジャーリーグ球団アスレチックス。そのゼネラルマネージャーに就任した「ビリー・ビーン」がデータをもとにした理論を駆使して、勝つための突破口を見出していく映画「マネーボール」。

 同じように、データをもとにした戦略をブレントフォードは駆使することになる。この戦略はサッカーでは、どのように働くだろうか。ここでは、xg(ゴール期待値)を例にとって、考えてみる。

 

 能力や体格が非常に似ている二人のフォワードがいる。Aは去年15ゴールを挙げ、Bは7ゴールを挙げた。この場合、もちろんAの移籍金のほうがBよりも高くなる。ただ、2人のゴール期待値を見た時Aは10に対して、Bは12あった。こんな時、AとBはどのように評価できるだろうか。

A.

たまたま、昨シーズン調子が良かっただけかも。

チームによいパサーがいただけかも。

データ以上の活躍をしていることから、加入してからも同じような活躍をしてくれるかは分からない。

 

B.

反対にBは去年調子が悪かっただけかも。

加入した後、元のポテンシャルを発揮するようになれば、Aよりは活躍が見込めるだろう。

 

 以上は簡単な例だが、データを利用する場合、BはA以上の活躍を期待できるだけでなく、Aよりも安い移籍金で獲得できる選手であると評価できる。データを指標にすると、このように能力がありつつも過小評価されている選手を発掘することができる。この手法を利用することは、バーゲン価格で選手を買えるだけでなく安く選手を買い高く売ることによって利益を得る事ができることを意味する。ブレントフォードはこの移籍手法において多大な利益を上げている。

いくつか、例を挙げると

オーリー・ワトキンス:700万ユーロ→3600万ユーロ(現 アストンヴィラ

Aston Villa FC

エズリ・コンサ: 285万ユーロ→1330万ユーロ (現 アストンヴィラ

Aston Villa FC

イード・ベンラーマ:170万ユーロ→2310万ユーロ (現 ウェスト・ハム

West Ham United FC

 

さらに、現所属の選手も

ブライアン・エンベウモ(24):350万ユーロ→現在の市場価値約3500万ユーロ

イヴァン・トニー(27):560万ユーロ→現在の市場価値約3500万ユーロ

(Transfermarket.com 参照)

 

 

 

育成システム

 上で説明したような特別な統計学的アプローチだけでなく、ブレントフォードは他のクラブとは異なる特別な育成システムを持っている。

 元々、アカデミーを持っていたブレントフォードだったが、中々上手く機能していなかった。その大きな要因の一つがその本拠地にあった。アーセナルチェルシーなど、同じくロンドンに位置する他のクラブとの競争が激しく、それに加え有望な選手の引き抜きにも頭を悩ませていた。それに加え、アカデミーには莫大な維持費がかかっていった。リーグから支給金が出るもののそれだけでは全く足りず、毎年莫大な維持費をクラブが出し続けていたのだ。

 この問題を解決するため、ブレントフォードはアカデミーを廃止し、新たな育成組織を設立する。それが、他クラブのアカデミーから、トップクラブに昇格することができなかった選手の獲得に狙いを定めた「Bチーム」である。この育成組織は、ラスムス・アンカーセンが「これまでのように他クラブを競争相手として見るのではく、他クラブをパートナーとして見るようにした」と語るように、問題だった他クラブとの競争から解放をもたらした。さらには、この新たな育成組織は双方のクラブにとって利益をもたらした。放出する側のクラブも選手をタダで放出するのではなく、ブレントフォードに売却することで多少の移籍金を得ることができる。それに加え、将来の売却時に売却額の数パーセントを得ることができるようになった。元々ネックだった、ロンドンに本拠地を置いたこともこのシステムでは、選手のアクセスのしやすさという面で恩恵をもたらした。

 「Bチーム」の、もう一つの利点が遅咲きの才能を拾うことも可能にしたことである。当時のプレミアリーグのアカデミーの選手は約半分が9月-11月生まれであり、体が比較的大きい選手が選ばれていた(日本でも、4月-6月の遅生まれの子供のほうが恵まれた体格を持つように)。体ができていなくても、技術のある選手。例えば、身長の問題でユースから放出されながらも、プレミアリーグ優勝に上り詰めた「ジェイミー・ヴァーディ―」のような選手を発掘することは「Bチーム」の目的の一つだった。それに、遅咲きの才能に注目するこのアプローチは、ブレントフォードのようなチームを悩ませていたアカデミー選手の引き抜きに対する一つの答えだったように思う。

LCFC

 

 

 若手を辛抱強く使うことは、中規模・小規模のチームにしかできない、特権であり、制約だろう。ラスムス・アンカーセンは本当の意味で選手の価値をはかるためには最低でも、35試合プレーすることが必要だと考えている。だが、この35試合をビッグクラブが多くの若手に与えるのは中々難しいだろう。反対に、中小クラブが多くの若手を35試合使うことは比較的容易い。時には、与えるまでもなく若手を使うほか選択の余地がないことが中小クラブでは起こりえる。クラブが小規模であることも選手の育成において、アドバンテージをもたらしたのだ。

 遅咲きの才能の発掘、一定の試合を通して選手の真価の計測。チームのここまでの成長を見れば、この育成組織は十分成功しているといえるだろう。

 

選手・監督

監督 

Sky Sports

 

 現在ブレントフォードの監督を務めているのは、2018年からチームを率いているトーマス・フランク(49)。デンマーク人のこの指揮官は2018年に監督に就任し、今年で5年目になる。実際には、前監督だったディーン・スミスのアシスタントコーチとして2016年から、チームに在籍しているため、チームには7年いることになる。結果が出なければ、すぐに監督交代がされる欧州サッカー界において、比較的長期間監督としてチームを率いており、その能力の高さとチームからの信頼が分かるだろう。

 

今季注目の選手を数人紹介したい。

選手

フォワード

イヴァン・トニー(27)

 

The Sun

 

 いろいろな意味で注目されている(最近は主に悪い意味で)、ブレントフォードのエース、イヴァン・トニー。現在は賭博規則違反により、2024年1月まで試合に出場できない日々を送るこのフォワードは昨季、素晴らしい活躍を見せていた。チームトップ、そしてプレミアリーグ得点ランキング3位となる、20ゴールを挙げ絶対的エースとして君臨していた。さらに、その活躍もあってか昨季イングランド代表デビューをも飾った。絶好調だっただけに選手自身にとっても、チームにとっても、出場停止処分は大打撃だっただろう。エリア内で決めきる決定力の高さ、そして185cmの体格を生かした空中戦の強さ。強力な武器を持つこの選手は出場停止ながらも、多くのクラブから注目されている。噂によると、チェルシーアーセナルトッテナムが1月の移籍期間での獲得を狙っている。実際にどうなるか分からないが、移籍する・しないに関わらず来年の1月は重要なポイントになるだろう。

 余談だが、イヴァン・トニーは、ゆったりとした助走から蹴るPKが特徴的である。興味のある人は一度見てほしい。

 

ブライアン・エンベウモ(24)

Brentford FC

 イヴァン・トニーの出場停止による、影響はチームにとって少なくないだろう。実際、ブレントフォードは23/24シーズン開幕6試合(9/28時点)を1勝3分2敗で終え、13位に位置している。そんな中、存在感を示しているのがこの、24歳のカメル―ン人フォワードである。昨季はシーズンを通して、36試合に出場し9ゴール・8アシストの結果を残したこの選手は、今シーズンすでに4ゴールを挙げ、チームの攻撃を牽引している。細かいタッチのドリブル、切り込んでからの左足のシュート、高精度のクロス。この選手の活躍が今シーズンブレントフォードを決める事になるだろう。

 

ミッドフィルダー

マティアス イェンセン(27)

The Athletic

 

 デンマーク代表のこのセントラルミッドフィルダーはここまで、6試合すべてに出場して2ゴールを挙げている。攻守両面において高い運動量で貢献するだけでなく、チームで最もゴールに直結するパスを出している選手でもある。ここまで、1試合平均で約2回決定機を演出している*。インプレ―だけでなく、セットプレー、ロングスローなどからのチャンスメイク、ゴール前まで飛び出した時の決して低くない得点力。今シーズン、この選手の活躍も重要なポイントになるだろう。

 

戦術

 多くの上位勢を苦しめてきたブレントフォード。ロングボールを主体としてし、切れ味のあるカウンターも武器として戦う彼らだが、その中でも特徴的といえる戦術を紹介する。

 

セットプレー

 昨シーズン、ブレントフォードプレミアリーグ全体で2位となる16ゴールをセットプレーから挙げている(1位はリバプール17点)。22/23シーズンの総得点が58点だったため、約3割の得点をセットプレーから挙げたことになる。これは、もちろん偶然ではない。ブレントフォードはセットプレーのポテンシャルの高さに長く注目してきた。そのためにセットプレーやキックのコーチだけでなく、スローインコーチも迎え入れている。

 セットプレー専属のコーチを持つことで、ブレントフォードは様々なセットプレーの形を得るだけでなく、試合毎に対戦する相手に即した形でセットプレーを行うことができるようになった。

 それに、セットプレーに力を入れる事はチームを強くすること以外にもメリットがあるとラスムス・アンカーセンは語る。それが、ディフェンダーなど普段点が取れにくい選手が得点でき、その選手の価値が上がることである。チームの価値と強さを同時に高めることができるのである。

 

最後に

 セットプレーについて、ラスムス・アンカーセンはインタビューで「もし、1000万ユーロのストライカーを買うことができなければ、他の方法で得点する方法を見つけなければならない」と語っている。使えるお金が少ないからこその「マニーボール」、アカデミー間の競争に勝てないからこその「Bチーム」、ストライカーがいないからこその「セットプレー」。持たざるものであるからこその進化こそ、このチームの真価かもしれない。

 

マニーボール

 紹介した、映画「マネー・ボール」は現在、Amazonでレンタル・購入することができます。

 戦術を理解し、選手の立ち位置、一挙手一投足に注目し始めたときのように。ダービーの歴史を知り、試合の価値を改めて理解したときのように。今まで見ていたはずのスポーツに新たな視点や面白み加えてくれる作品です。ぜひ見てみてください。

 

・マネーボール(吹き替え版)

・マネーボール(字幕版)

 

 書籍版もあります。

 

Bleacher Reportインタビュー記事

bleacherreport.com