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主要なリーグでは、23-24シーズンも終盤戦に突入した。シーズンが終わりを迎えるにつれて、優勝争いや降格圏脱出争いは熱を帯びていく。それと同じく、終盤戦のもう一つの楽しみがヨーロッパ主要大会への出場権争いである。主要リーグでは、上位から順に「UEFAチャンピオンズリーグ」(CL)、「UEFAヨーロッパリーグ」(EL)、「UEFAヨーロッパカンファレンスリーグ」(ECL)への出場権が振り分けられる。
プレミアリーグ22-23シーズンを例にみると、以下のように出場権が与えられた。
1位~4位「UEFAチャンピオンズリーグ」
5位~6位「UEFAヨーロッパリーグ」
7位 「UEFAヨーロッパカンファレンスリーグ」
そんな、ヨーロッパ主要大会だが24-25シーズンから大会フォーマットが大幅に変わる。従来のこれら三つの大会は、以下のようなフォーマットで行われていた。
32の参加クラブが4チームずつ8つのグループに分かれ、グループ内リーグ戦での上位数チーム(大会によって変わる)が決勝トーナメントに進む。
それが、来年からは所謂スイス式トーナメントに代わる。これまで、アウェーゴールがしれっとなくなるなど、絶えず変化してきたCLなどヨーロッパ主要大会だが、今までと比べても大きな変化と言えるだろう。
新フォーマット
新しいフォーマットのCLでは、参加する36チームは予選の段階で1つの大きなリーグにまとめられる。参加クラブは9クラブずつ4つのポットに分けられる。どのクラブもそれぞれのポットのクラブと2試合ずつ計8試合行う。最終的なリーグの上位8クラブが決勝トーナメントに進出。9位-24位のクラブはホーム&アウェイ1戦ずつ行うプレーオフラウンドに進出する。プレーオフで勝利した8クラブが1位-8位の待つCLの決勝トーナメントに、敗北した8クラブはヨーロッパリーグに進む。一方で、25位-36位のクラブはそのシーズンのヨーロッパ大会終了となる。
ポイント
・36クラブを一つのリーグにまとめた予選ラウンド
・4つのポットに振り分けられたクラブと2試合ずつ計8試合
・上位8クラブが決勝トーナメントに
・9位-24位がプレーオフに
・プレーオフ勝者8クラブが決勝トーナメントに
32クラブから36クラブに、増えた4枠は?
前述したように、新たなCLは4枠増えた36クラブで開催される。では、この4枠は誰に与えられるのか?
1.まず、1枠はUEFAの協会クラブ係数ランキング(Association club coefficientの直訳)5位の国に与えられる(フランス・リーグアン)。これにより、リーグアンのCL枠が2枠→3枠に増加。
2.続いて、もうひと枠は協会クラブ係数ランキング11位以降の国内優勝クラブ等によって、争われるCL予選に追加される。4枠→5枠に増加。
3.そして、残りの2枠(European Performance Spots)は前シーズンの協会クラブ係数ランキングが最も良かった2つのリーグに与えられる。既にCLに直接出場権を獲得しているクラブに次いで国内リーグで順位が高いクラブが出場権を得る。
多くの人にとって、重要なのは間違いなく3番目の2枠だろう。現時点での協会クラブ係数ランキング上位国を確認する前に、そもそも協会クラブ係数ランキング(Association club coefficient)とは一体何なのかを見ていこう。
UEFAランキングなどと呼ばれるこのシステムは今回のようなヨーロッパ主要大会の出場権やシード権を決める際に用いられる。「Association club coefficient」はUCL、UEL、UECLに参加した各国協会のクラブが獲得したポイントを参加したクラブ数で割ったものを指す。そのポイントが高い2か国が追加でCL出場権を得ることができるわけである。そして、そのポイントの獲得の仕方だが、以下の通りになっている。
2ポイント-グループステージ・決勝トーナメントでの勝利(予選・プレーオフは1ポイント)
1ポイント-グループステージ・決勝トーナメントでの引き分け(予選・プレーオフは0.5ポイント)
4ポイント-グループステージ出場ボーナス(UCL)
4ポイント-ベスト16出場ボーナス(UCL)
4ポイント-グループステージ首位(UEL)
2ポイント-グループステージ2位(UEL)
2ポイント-グループステージ首位(UECL)
1ポイント-グループステージ2位(UECL)
1ポイント-ベスト16から上に進出するたびに(UCL、UEL)
1ポイント-準決勝から上に進出するたびに(UECL)
詳しくは、UEFA公式サイトを参考にしてほしい。
改めて、現在のポイント上位国(23/24シーズン)を確認すると、以下のようになっている。
1位イタリア(124.000ポイント/7クラブ=平均17.714ポイント)
2位ドイツ(114.500ポイント/7チーム=平均16.357ポイント)
3位イングランド(130.000ポイント/8チーム=平均16.250ポイント)
イタリアが優勢であり1枠追加されることが有力視されている。一方で2位3位のドイツ、イングランドはかなり競っている。
これからのヨーロッパコンペティション
そのうえで、ヨーロッパコンペティションに残っている5大リーグのチームを見てみよう。
CL EL ECL
EL ECL
ローマ
CL
CL EL
CL EL ECL
PSG マルセイユ リール
残っているチームを見るとプレミアリーグが最も多く(5)、次いでセリエA(4)、ラ・リーガ(3)、ブンデスリーガ(3)、リーグアン(3)と続く。
どのコンペティションもベスト8まで進み、レベルが高まって来た。アーセナルVSバイエルン、レアル・マドリードVSマンチェスターシティなど、どの対戦もビッグマッチである。中でも、プレミアリーグ勢とブンデスリーガ勢の対決は来季のCLに重要な影響を及ぼす対決になってくる。何年振りかにデアクラシカーでドルトムントに敗れ、落ち目とは言え、侮れないバイエルン。いまだプレミアリーグ優勝争いに残っているものの、ポルトに何とか勝利し上がって来た印象のあるアーセナル。神がかり的な逆転劇を幾度と起こし、いまだリーグ戦無敗のシャビアロンソ率いるレバークーゼン。昨シーズンほどの勢いを感じないものの、期待したいウェストハム。
CLアーセナル対バイエルン、ELレバークーゼン対ウェストハムは要注目だ。
来シーズンのCL出場権
では、ここで来シーズンのCL出場権をまとめてみる。
昨シーズン(23/24)CL優勝チーム (1チーム)
昨シーズン(23/24)EL 優勝チーム (1チーム)
イングランド(4チーム)
スペイン(4チーム)
ドイツ(4チーム)
イタリア(4チーム)
フランス(3チーム)
オランダ(2チーム)
ポルトガル(1チーム)
ベルギー(1チーム)
スコットランド(1チーム)
オーストラリア(1チーム)
European Performance Spots (2チーム) (イタリア?ドイツ?イングランド?...)
優勝チーム予選通過クラブ(4→5チーム)
上位リーグ予選通過クラブ(2チーム)
なぜ、スイス式トーナメントに変更?
ここまで、新たなフォーマットについて見てきたが、そもそもなぜUEFAは新たなフォーマットへの変更を行うのだろうか。
UEFAは新たなフォーマットがもたらすものについて以下のように回答している。
- それぞれの大会により多くの欧州チームが参加することから、より多くの欧州トップクラスの試合を大会の早い段階から見る事ができる。
- どのチームもリーグ戦を通して同等のレベルの相手と対戦することになり、全チーム間の競争バランスを改善する。
- グループステージのどの試合も重要になる。どの試合の結果も順位を劇的に変える可能性を持つ。リーグ戦の最終戦での勝敗がベスト16への切符を手にするのか、プレーオフに進むのか、はたまた大会から姿を消すのかの分かれ目になるかもしれない。
つまるところ、みんなが見たい強豪同士の対決を早い段階から見ることができ、公平な対戦が期待でき、グループステージ全体を通して緊張感のある競争を期待できるというものだろう。UEFAによる新フォーマットの欧州各大会の説明は一理ある。欧州トップクラスの試合をグループリーグから見る事ができるようになるのは間違いない。グループステージのリーグ戦を通して同等のレベルの相手と対戦することもそうだろう。ただ、この新フォーマットがグループステージに良い意味で緊張感をもたらすという点には疑問が残る。まず第一に、本当に緊張感のあるグループステージなるのか?そして、第二に良い緊張感のあるグループステージになるとして、それは新フォーマット導入と釣り合うものだろうか?
従来の同グループ3チームと対戦するフォーマットと大会参加チームすべてと競争する新フォーマットでは、毎試合重要になることは間違いない。ただ、新フォーマットでは1位~24位が決勝トーナメントないしは決勝トーナメントへのプレーオフに進む。グループ内の4チーム中2チームが進出する従来のフォーマットに比べるとかなり多くのチームが少なくともプレーオフに進むことになる。確かに、競争相手は増えた。ところが、同様に枠も増えた。特に皆が見るような実力があり、人気のチームは数試合の強豪相手の試合を除いても、実力の劣る相手に取りこぼさなければ、ほぼプレーオフ圏内に残ることが可能だろう。もちろん、ベスト16へのプレーオフ等が新たな興奮をもたらしてくれることもあるだろう。この点については、始まってみないと分からない部分もある。
続いての疑問が新フォーマット導入による選手への負担である。実際のところUEFAの狙いはお金。間違いなく、お金だろう。参加するチーム数が増えるということは、それだけより多くの世界中のファンに大会を宣伝することになる。皆がお金を払ってもみたいという人気のあるクラブが残りやすくなり、さらに試合数も増えるとなれば、大会の人気も高まる。新フォーマットでは、グループステージでの試合数は6試合から8試合に2試合増え、決勝トーナメントプレーオフに進んだ場合にはさらに2試合増える。多くの選手を怪我やコンディション不良に追い込んだ、代表戦を含んだ過密日程が「FIFAウイルス」と揶揄されたように、国内リーグ戦とヨーロッパ主要大会だけでなく、さらに、代表戦をも戦う選手たちへの負担は増加し続けている。新フォーマットがもたらすものは、これらを犠牲にする価値のあるものだろうか。利益を追い求めることは何ら問題がないが、その負担が選手等、現場に来るとなると話が変わってくる。利益は際限なく求めることができるが、選手たちには限界があるのだから。
プレミアリーグのCL出場権争い
プレミアリーグが2枠を争うとすると、どのクラブがCLリーグ行きを勝ち取るのだろうか。
(4/2時点での順位表)
CL権が4位までか5位までかによって、変わるが現在の順位を見るに基本的に上位3クラブ(リバプール、アーセナル、マンチェスターシティ)は安泰と言っていいだろう。残りのCL権争いは実質的に3つのクラブで争われるだろう。アストンヴィラ、トッテナム、マンチェスターユナイテッドどのクラブがCL権を獲得できるだろうか。まず、現在の差を考えるとアストンヴィラとトッテナムが3ポイント差そして、マンチェスターユナイテッドがさらに8ポイント差になっている。トッテナムがアストンヴィラと比べ消化試合数が1試合少ないことを考えると、この2チームは実質的に並んでいると考えてもいいだろう。マンチェスターユナイテッドはその2チームを8ポイントで追っている。ちなみに、得失点差もアストンヴィラ(20点)、トッテナム(18点)、マンチェスターユナイテッド(0点)の順番に並んでいる。
まず、4位までがCL権を獲得できる場合。つまり、ブンデスリーガとセリエAに追加枠が与えられた場合。この場合はかなり熾烈な競争が期待できる。競っている2チームが一つの枠を競って争い、マンチェスターユナイテッドももしかしたら、その争いに参加できるかもしれない。では、2チームのうちどちらがより近いところにいるだろうか。まず、アストンヴィラの今後の予定を確認しよう。プレミアリーグは残り8節、そしてECLベスト8の試合がある。トッテナムは逆にプレミアリーグの残り9節のみがある。この時点で既にトッテナムが多少有利に見える。さらにそれぞれの対戦相手を見ると両チームとも「マンチェスターシティ」「アーセナル」「リバプール」の試合を残している。強いて言えば、ニューキャッスルとの試合を残しているトッテナムが多少不利のような気もするが、誤差の範疇だろう。
ただ、アストンヴィラとトッテナムの日程の過密差には、かなりの差がある。アストンヴィラの日程を見ると、4日にマンチェスターシティ戦、6日にブレントフォード戦、12日にECLリール戦、15日アーセナル戦、19日ECL第2リール戦、21日にボーンマス戦がある。7試合を短いスパンで行う過密日程が待っている。
しかも、その中にマンチェスターシティ戦、アーセナル戦を含み、さらに来シーズンのヨーロッパ大会権獲得に重要なECL戦も入っている。対して、トッテナムは3日にウェストハム戦、8日にフォレスト戦、13日にニューキャッスル戦、そして、いまだ未定のマンチェスターシティ戦がある。ただその次の試合は28日のアーセナル戦と余裕がある。
日程的な厳しさも、その日程での対戦相手もアストンヴィラのほうがかなり厳しいものになっている。実際にOPTAによるとトッテナムが4位内で終わる確率の方が幾分か高くなっている。
(3/18日時点でのデータ)
5位までがCL権獲得の場合は?
5位まで、CLを獲得できる場合にも基本的には同じことがいえる。問題はマンチェスターユナイテッドだが、かなり厳しい戦いを強いられている。5日のチェルシー、7日のリバプールの短いスパンでの2連戦そして、いまだ残っているFAカップ。ただ、日程というよりも、実力面に不安が残る。実際6位にいるように実力は間違いなくあるのだが、非常に不安定であるように感じる。トッテナムに引き分け、アストンヴィラには勝利、FAカップでは、リバプールに対して劇的な勝利を収めた。それでもなぜか直近のブレントフォード戦では、シュート31本を受け、引き分けで何とか助かったような試合を展開していた。メイソンマウントの復帰とゴール等ポジティブな要素もありながらもかなり厳しい残りの数試合になりそうである。OPTAのデータを見てもこれまた相当不利な戦いになりそうである。
(3/18日時点でのデータ)
最後に
これまで、新たなCLのフォーマット。そしてCL権を獲得するかもしれないプレミアリーグのクラブについて見てきた。実際には見てきた4位や5位までのクラブだけでなく、それ以降のクラブがCL権を獲得することもある。前述したように、CL優勝チームもEL優勝チームもCLへの出場権を得る。そういう場合では、6位でも7位でも出場権を得られるかもしれない。これからはリーグ最終盤であると共に過密日程の幕開けでもある。選手、監督にとっては大変な期間だが、ファンにとっては多くの大会の最終盤の熱狂を楽しめる最も面白い期間である。存分に楽しみたい。
一方で、見てきたCLの新フォーマットは選手だけでなく、ファンにも混乱をもたらしてきた。それと同時に新たな観戦の視点をくれるのかもしれない。今年で言えば、たとえ競争相手であるトッテナムやマンチェスターユナイテッドのファンであっても、アストンヴィラのECLでの勝利やマンチェスターシティのCLでの勝利を喜べるかもしれない。その勝利ポイントが来季のCLの新たな枠をもたらすことになるかもしれないからだ。それとも、それは「真のファン」とは呼べないのだろうか。学生時代散々言われていた「受験は団体戦」という言葉を思い出した。ヨーロッパ主要大会はファンにとってはリーグ毎の「団体戦」かもしれない。