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シティやトッテナムに勝利!「ウルブズ」について

 ウルヴァ―ハンプトン・ワンダラーズ通称、「ウルブズ」。プレミアリーグに所属するこのクラブは12月現在13位に位置付けている。順位だけ聞くと微妙なチームかもしれないが、試合ごとに見るとマンチェスターシティに2-1で勝利、トッテナムにも2-1で勝利、ニューキャッスルに2-2で引き分けと目に見える結果を残している。それ以上に「ウルブズ」の注目点は今シーズン始まる前の状態にあった。

 今夏の移籍市場で「ウルブズ」は自クラブファンのみならず、世界中のサッカーファンを驚かせることになった。それが、チームの象徴26歳ルベン・ネベスのサウジアラビアリーグへの移籍である。クリスティアーノ・ロナウドを皮切りにサウジアラビアリーグへの移籍がトレンドになったが、26歳のネヴェスのように全盛期の選手が移籍することは珍しかった。バルセロナや他のプレミアリーグのチームクラブへの移籍の可能性が報じられながらも、トップレベルとは言えないサウジアラビアへの移籍は大きな波紋を呼んだ。

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 チームの象徴だっただけにネヴェスの移籍はクラブにとって打撃だったが、放出しなければならない事情がウルブズにはあった。スポンサー企業の業績不振、そしてFFP(ファイナンシャル・フェア・プレー規則)の問題である。サッカークラブの財政健全化を目的としたこの規則では、移籍金と人件費などの支出が移籍金や入場料テレビ放映権料、大会賞金などのサッカーで得た収入を上回ることを禁じている。つまるところ、得た金額以上を使ってはいけないという話なのだがウルブズはこの規則に抵触しかけていた。そのため、選手売却によるお金が必要であり、ネヴェスを売却せざるを得なかったわけである。さらに、ネヴェスを売却したからと言ってさらなる大きな補強は期待できず、このことも理由のひとつになり、前任監督であったファン・ロペテギの退任が発表された。プレミアリーグ開幕の5日前のことだった。後任には、昨シーズンボーンマスを率いていたガリー・オニールが就任。ところが、開幕寸前には中心選手だったマテウス・ヌネスもマンチェスターシティに移籍することになった。

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 つまり、ウルブズは象徴的な選手を失い、しかも大きな補強はなく、開幕寸前に監督を入れ替えてシーズンをスタートさせた。昨シーズンでさえ、なんとか13位に落ち着いたもののゴール数は全クラブ中最下位であり(31ゴール)、チーム自体も問題を抱えていた。

 そんな状態でスタートしたウルブズだが、初戦マンチェスターユナイテッド戦は驚きに満ちたものになった。結果を見ると0-1での敗北だったわけだが、シュート数を始めチャンスメイクの部分でユナイテッドを上回った。特にフォワード、マテウス・クーニャなどの活躍はすさまじく一人で局面を打開してからのチャンスメイクは大きな衝撃を与えた。さらに、試合終盤にはユナイテッドGKオナナによるペナルティーエリア内でのファール取り逃しもあった(後日、プレミアリーグプロ審判協会が誤った判断だったと謝罪)。そこから、ブライトンなどに敗れつつも前述した強豪相手にも、勝ち点をつかみとって来た。明らかに厳しそうな状況から今の位置にいるのには、様々な要因があるだろうが、選手の活躍を挙げたい。

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 今シーズンのウルブズでは、特に二人の選手の名前がよくあげられる。それが、FWペドロネトと同じくFWのファン・ヒチャンだ。ペドロネトは現時点でのリーグアシスト数トップの7アシストを挙げており、ファン・ヒチャンはリーグ6位タイとなる7ゴールを挙げている。ネトは昨シーズン18試合に出場して0ゴール1アシスト、ヒ・チャンは27試合に出場して3ゴール1アシストという記録だった。この二人の活躍がウルブズを支えていると言っても過言ではないだろう。

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 では、これからのウルブズはどうなるのだろうか

 そのために近年の歴史を振り返る。2016年ウルブズはトップチームへの道のりを歩み始めた。それまでは2部で低迷していたウルブズが中国の投資グループ「復星集団」の企業「復星国際」によって買収された。当時の中国では、政府主導のサッカー強化策の動きで多くの金がサッカーに動いていた。中国クラブの選手の爆買いと共に、中国資本による欧州サッカークラブの買収も相次いだ。インテルミランACミランのミラノ勢、ニース、エスパニョール、サウサンプトンなどが中国企業や投資グループに買収された。ウルブズの買収もこの流れの中の出来事だったわけだ。

 このクラブ買収で大きな役割を果たした人物がいる。それが、クリスティアーノ・ロナウドジョゼ・モウリーニョを顧客に持つことでも、有名な代理人ジョルジ・メンデスである。“アドバイザー”として、ウルブズの移籍に関与することになったメンデスは多くの顧客をウルブズと契約させた。前述した、ルベン・ネベスだけでなく、2017年から監督に就任したヌーノ・エスピリト・サント。リバプールに羽ばたいていったディオゴ・ジョタ、現キーパーと前キーパー、ジョゼ・サーとルイ・パトリシオ、他にも、ジョアン・モウティーニョ、ネルソン・セメド、アダマ・トラオレ、ゴンサロ・ゲデスなどもすべて、メンデスの顧客だ。ポルトガル人でポルトガルを中心に強力なネットワークを持つメンデスが移籍に関わることで、ウルブズは大きな成長を遂げる事になった。一時期、本当にイングランドのクラブかと思うほどポルトガル人がチームに多かったのはこういった背景があった。

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 クラブが買収され、大型移籍によって戦力も大幅に強化されたウルブズは2017-2018シーズンにはチャンピオンシップ(2部リーグ)で優勝し、6年ぶりにプレミアリーグに帰って来た。

 そこで、ウルブズは次の計画に移行する。

 2020年スイスの名門グラスホッパー・クラブ・チューリッヒ(通称グラスホッパー)が香港の企業Champion Union HK Holdings Limitedによって買収される。この企業の会長を務めるジェニー・ワンはウルブズのオーナー復星国際の会長、郭広昌(クオクアンチャン)の妻である。つまり、ウルブズとグラスホッパーは共通のオーナーによって運営される形とになった。「マルチクラブオーナーシップ」と呼ばれるこのシステムは欧州トップリーグでは、多くのクラブによって取り入れられている。有名どこでは、マンチェスターシティを中心として形成されている「シティ・フットボール・グループ」があげられるだろう。今シーズンスペインでミラクルな活躍をしている「ジローナFC」、Jリーグの「横浜Fマリノス」など世界各国のクラブがマンチェスターシティとパートナーシップを結んでいる。共通のオーナーを持つことによって、クラブ間でのノウハウの共有、クラブ間での選手移籍後の管理のしやすさなど恩恵は計り知れない。「ジローナFC」や「横浜Fマリノス」の活躍の一因なのは、間違いないだろう。ウルブズもその恩恵を狙いに行く。

 グラスホッパーはウルブズと同じようにポルトガル人選手、そして地元のスイス人選手が多いが、アジア人選手も所属している。日本からは代表経験もある「川辺駿」「瀬古歩夢」中国人ディフェンダー「リ・ライ」韓国人フォワード「チョン・サンビン」などが所属してきた。実際に「川辺駿」はサンフレッチェ広島からグラスホッパーに2021年に移籍すると2022年にはウルブズに移籍した。残念ながら、出場機会を得ることなく2023-2024シーズンには、ベルギ―、スタンダール・リエージュに完全移籍することになった。

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 ベルギーやスイス、オーストリアのリーグはアジア出身の選手がより、高いレベルの欧州リーグに移籍する前に成長する環境として上手く機能していると言えるだろう。川辺は上手くいかなかったにしろ、南野拓実三苫薫やその他の日本人もビッグクラブ移籍前にこれらの国のクラブを経由していることは少なくない。南野は「レッドブル・ザルツブルク」で、三苫は「ユニオンSG」でプレーしていた。現在ウルブズで爆発しているファン・ヒチャンも南野と同じ「レッドブル・ザルツブルク」で活躍した後に欧州リーグに出てきた。新たな、ファン・ヒ・チャンを生み出すこと。つまるところ才能ある無名の選手を成長させ、トップリーグにいる自チームに送り出すことがこのクラブ役割だと言える。

 三苫薫が「ユニオンSG」で1年間プレーしたのには、実には他にも理由がある。それが、イギリスの労働許可証の問題である。詳しい説明は以下を参照してほしいが、簡単に言うと、代表やクラブでの出場時間によってポイントが与えられ、そのポイントが一定基準(15ポイント)以上でなければ労働許可証を得ることができない。Jリーグでの試合出場で得られるポイントが少なく、この基準が満たせないわけである(最近改定され、Jリーグのランクが上がった)。グラスホッパーには、この労働許可証が発給されない選手をしっかり管理でき成長させることができる場としての役割も持っている。ちなみに、三苫が1年間レンタル移籍していた「ユニオンSG」は現所属の「ブライトン」と同オーナーが保有するクラブである。また「レッドブル・ザルツブルク」も名前の通りレッドブルグループのクラブであり、他にも「RBライプツィヒ(ドイツ)」「リーフェリング(オーストラリア)」「ニューヨーク・レッドブルズアメリカ)」などのクラブを保有している。共通のオーナーが複数のクラブを保有する「マルチクラブオーナーシップ」はヨーロッパサッカーで普及し始めている。

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 では、話は戻りウルブズはこれからどうなるだろう。この勢いのままリーグ戦を戦い続けられれば去年よりも良い位置でシーズンを終えられるかもしれない。ただ、シーズンはまだ折り返し地点にも到達しておらず、先は長い。ペドロネトを含め、軽傷ながら負傷者が出始めている。毎年恒例、年末年始の過密日程なども考慮すれば、負傷者なしで切り抜けるのは相当厳しそうである。そこで、中心選手が負傷すれば、中々ヘビーな状況になるのは間違いないだろう。ここまで、説明したシステムも何かあったときに、すぐに救世主を呼んできてくれるようなものではない。もちろん、今のウルブズに救世主を呼んでくるような移籍面においての余裕なんてない。じわじわと厳しい現実が迫ってきている感じがしないでもないが、何が起こるかは正直分からない。

 きっと、どれだけ上手くいってもシーズンが終わった時、ウルブズはいい意味で話題に上がるような場所(悪い意味では分からないが)にはいないだろう。ファン・ヒチャンやペドロネト、マテウス・クーニャなどの活躍を始め、厳しい状況ながら、ウルブズの試合には、どこか惹かれるものがある。これからの進展に注目したい。