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Premier League, あなた誰? ファンマ・リージョ、ジェイソン・ティンダル、オースティン・マクフィー

 サッカーの試合を見ていると、試合をしている選手やコートだけでなく、ベンチや客席、コレオグラフィーが映し出される。客席のファンや監督の反応を見ていると、さらなる臨場感が楽しめ、コレオグラフィーは試合を特別なものにしてくれる。特に、両監督を映し出す映像は両チームの性格を映し出しているようで面白いものだ。

 ただ、カメラの映像を見てみると、よく映り込む人物がいる事に気づくと思う。そういった人はベンチ回りに多く、映りはするものの一体これは誰なんだ、といったことを思っていることだろう。今回はそういった人を数人紹介していく。

ファンマ・リージョ

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ペップ・グアルディオラ監督(左)とファンマ・リージョ(右)

 まずは、現在首位を走るマンチェスターシティから。監督ペップ・グアルディオラは今では、誰もが知るところになったが、試合中彼がベンチでよくスタッフと話しているところが映し出される。ファン・マヌエル・リージョ(ファンマ・リージョ)、哲学者とも評される、この人物は現在マンチェスターシティでアシスタントコーチを務めている。Jリーグヴィッセル神戸でも、監督を務めた経験もあるため、知っている人もいるだろう。そんな、ファンマ・リージョについて見ていこう。

 ペップ・グアルディオラが最も、影響を受けた一人であるという、リージョの経歴を見ると、驚くことに29歳でスペイン1部の監督デビューしている。10代の時から、監督への道へ進み、いくつかのクラブの監督を経て、1992/93シーズンに当時2部だったUDサラマンカの監督に就任。1994/95シーズンには1部への昇格を果たした(UDサラマンカは12-13シーズンに解散した)。それから、1996/97シーズン、リアル・オビエドで初めて現役のペップ・グアルディオラと対戦し、CDテネリフェ、レアルサラゴサ、などの監督を経験し、2005/06シーズン、メキシコのドラドス・シナロアでペップ・グアルディオラと初めて共に仕事をした。この時、ペップはまだ現役の選手だった。レアル・オビエドでペップと初めて対戦した後から二人の交友関係は始まったと語っている。

 その後、レアルソシエダアルメリアミジョナリオスFCの監督、チリやセビージャのアシスタントコーチを経て、18/19シーズンに日本のヴィッセル神戸の監督に就任した。ラリーガで最後に監督を務めたアルメリアから解任することが決定づけられたのは、ペップが率いるバルセロナに対する8-0での対敗だった。その後、半年で、日本から去ることになり、中国スーパーリーグを経て、19/20シーズンマンチェスターシティのアシスタントコーチに就任する。22/23シーズンにアル・サッドの監督になるも1年でマンチェスターシティのアシスタントコーチに戻って来た。

Transfermarkt.jp

 ペップのアシスタントコーチには、ミケル・アルテタ等、皆が知る人物が行ってきた。リージョとは、一体どんな人物だろうか。リージョの名前をインターネットで調べてみると、戦術家として紹介されていることがよくある。ペップのアシスタントコーチを務めるくらいだから、戦術に通じていそうだが、所謂戦術に強い監督でも、例えば、ペップとクロップは全然違う。リージョはどんな監督だろうか。

 経歴を見る限り、彼は世界中が知っているようなクラブを率いていた経験もなく、誰もがうらやむようなトロフィーを手にしているわけでもない。数字を見る限り、パッとしない監督である。まず、いくつもの記事や書籍で語られるのはリージョの4-2-3-1についてである。今や一般的なフォーメーション4-2-3-1。このフォーメーションを作り上げたのが、リージョ本人というのである(諸説あり)。このフォーメーションはその機能性から、世界中で利用されるようになった。こういった話を聞くと、まるでチェスや将棋の駒のように選手を配置し操る、戦術家という側面が強く感じ取られる。ところが、このイメージと実際のリージョの考えは大きく違うようである。彼に言わると、サッカーの試合というのは選手のものであり、監督が試合中にもたらすことができることはそう多くないらしい。These Football Times の「What if success looked a lot like failure? The story of Juanma Lillo(もし、成功が失敗のように見えたら?)」によると、リージョは以下のように語ったという。

 

 “A manager is nothing more than a facilitator, at the very most. A manager must be like God, be everywhere but nowhere to be seen. At the very most he or she facilitates things but not more. The players are what’s truly important, with good footballers everything is easier.”

監督はせいぜいファシリテーターにすぎない。どこにでもいるが、誰にも見えない神のような存在でなければならない。できることと言えば、物事を円滑に進めるだけでそれ以上はできない。選手たちが重要なのだ、いい選手がいればすべてがうまくいく。

thesefootballtimes.co

 彼に言わせれば、4-2-3-1というような、フォーメーション図は無意味なもので、選手たちによって行われる以上サッカーとは何が起こるかわからない予測不能なスポーツなのだ。彼の考え方は我々の観戦方法にも、何かをもたらしてくれるかもしれない。

 

「今は誰もがサッカーではなく、“人形”の話をするようになった。誰もが紙に“人形”を描くようになった。こんなのは私の息子だってできるよ(笑)。このね、『×』で表現されているものも、こっちはメッシでこっちは誰だかわからない選手だ。どうして同じ価値観で表現できる?」

2018/09/18 footballista 「まるで禅問答。ヴィッセル神戸ファンマ・リージョ監督の哲学」

www.footballista.jp

ジェイソン・ティンダル

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ジェイソン・ティンダル(左)とエディ・ハウ監督(右) 

 ピッチラインぎりぎりまで迫り選手たちに指示を出す。一般的な監督の振舞だ。ただ、アシスタントコーチがこのように振る舞うことは珍しい。

ニューキャッスルの監督である、エディ・ハウよりも目立つことで有名にもなった、ニューキャッスルベンチで存在感を放っている人物。それが、ニューキャッスルのアシスタントコーチ「ジェイソン・ティンダル」だ。近年、クラブ力を上げ、強豪クラブへの仲間入りへも後、一歩というところまで来ているニューキャッスル。ジェイソン・ティンダルはそんなクラブでどんな役割を果たしているのだろう。

 その前に、軽く彼の経歴を見てみよう。

 1995年にCharlton  u18のチームからキャリアをスタートしたティンダルはCharlton U21のチームから、ボーンマスへ移籍し、その8年後の2006年、ウェイマスFCへと移籍した。その後、一定期間無所属となった後、ボーマスに2011年に復帰し、2011年に引退している。コーチのキャリアを見ると、ウェイマスFC在籍中に選手権監督をこなしたのが、始まり。2008年からボーンマスでアシスタントコーチを、そして10/11シーズンからはバーンリーでアシスタントコーチを、12/13シーズンにボーンマスアシスタントコーチに再び戻り、20/21シーズンには監督に就任した。20/21シーズンの途中には、シェフィールドユナイテッドのアシスタントコーチへと移り、21/22シーズンから現職のニューキャッスルアシスタントコーチに就任した。

 監督であるエディ・ハウとジェイソン・ティンダルの関係はボーンマスで10年、バーンリーで19カ月続いている。このコンビはニューキャッスルで知っての通り、確かな結果を残し始めている。The Athleticsによると、エディ・ハウとティンダルの性格は正反対だそう。エディ・ハウが内向的なのに対して、ティンダルは外交的だ。それでも、彼らが共に働いていけるのは、彼らが同じ理念を共有し、長い間共に仕事をしてきたからだそうだ。具体的には、エディ・ハウが攻撃面を担当し、ティンダルは守備とセットプレーを担当している。さらに、監督としての仕事も彼らは分担している。エディ・ハウが試合に集中する一方で、ティンダルは第4審とのコミュニケーションなども行うという。

 こう見るとニューキャッスルには、2人の監督がいるようである。しかも、上手く協力した。彼らは、ボーンマス時代から、選手などに対する面談でも、2人で行い。それぞれが別の角度からの意見を提供できるという。彼ら二人がピッチ際に立ちすぎているせいで、プレミアリーグでは、一人しかテクニカルエリアにしか立ってはいけないとルールが追加された。そのおかげで、エディ・ハウとティンダルは状況によって、バトンタッチをし、タッチラインに出てくる。冷静に試合を見つめるエディ・ハウ、そして「狂犬」と呼ばれるジェイソン・ティンダル。二人のバランスがニューキャッスル躍進のカギになってくるだろう。たまに、前に出過ぎることもあるが。

オースティン・マクフィ

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 中央で分けた金髪の長髪と髭。画面にカットインしたときのインパクトは大きかった。エメリ率いる、アストンヴィラのベンチを見ると彼が目に入る。アストンヴィラのセットプレーコーチ、オースティン・マクフィ―44歳。昨年あたりからのアストンヴィラを見ていると、セットプレーの多彩さを感じる人も多かっただろう。

 マクフィーはスコットランドのフォーファーu20から選手としてのキャリアを始め、アメリカに渡り、その後ルーマニアへ、そして2003年に日本のFC刈谷に移籍し、そこで引退した。実は、日本とも関りがある人物である。

 引退した後は、スコットランドに帰り、いくつかのクラブの監督とアシスタントコーチを経験。順当にリーグを上がっていき、スコティッシュプレミアリーグ(一部)のハート・オブ・ミドロシアンのアシスタントコーチ、暫定監督、スポーツダイレクターと順に就任する。次に活躍の場をデンマークに移し、FCミッティランのアシスタントコーチに就任する。ちなみに、この当時のFCミッティランのオーナーは現ブレントフォードのオーナー、マシュー・ベンハムだった(現在はデンマークの億万長者、アナス・ホルシュ・ポールセンに売却されている)。そして、その1年後の2021年8月アストンヴィラのコーチに就任する。就任してから、3人の監督ディーン・スミス、スティーブン・ジェラード、ウナイ・エメリの元で必要とされ、現在でも重要なコーチの一人になっている。

 彼の仕事ぶりは試合を見ていると分かるものだが、実際に今シーズンのゴールを見ると現在リーグ3位となる14ゴールをセットプレーから挙げている。それに、カンファレンスリーグリール戦では、2ゴールともセットプレーから決まっていた。いくつかのパターンを見てみよう。

 

 


 マクフィーはセットプレーに細部までこだわっていて、trackman(ドップラー技術を利用しボールの動きを追跡する、ゴルフで初めて使用されたレーダーシステム)まで使用しているという。その徹底ぶりが、アストンヴィラの武器を増やしていることは間違いない。アストンヴィラが空中戦に強い、恵まれた体格の選手ばかりではないそれでも、セットプレーから得点を量産できているのはマクフィーの仕事あってのことだろう。

最後に

 中継でよく抜かれる人物を3人紹介してきた。試合を見ていると、チームの方針や戦術が変わっていることに気づくことがあるだろう。そんな時、それは誰の影響だろうと考えるとまた、面白いサッカーの見方ができるかもしれない。個人的には、ファンマ・リージョの考え方は多少、これまでの観戦感を変えてくれるものだった。言っていることが難しく、ほんの何割かしか理解できていないかもしれないがいくつかの点は覚えておこうと思う。何が起こるか分からない状況を楽しむこと、結果にとらわれないこと。