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チャンピオンズリーグ出場!? アストンヴィラ解説

皆さんいかがお過ごしだろうか。

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 世の中のサッカーは終わりを迎えている。既に、優勝チームが決定しているリーグのほうが多くなっている。セリエAインテル。ラリーガはマドリ―。ドイツはレバークーゼンが優勝を決めている。プレミアリーグマンチェスターシティがアーセナルに優勢で残り3節を残している。

 ただ、本日見ていくのは優勝するようなチームではなく、彼らのすぐ下。新たな強豪と呼ぶにふさわしいチームだ。毎年10位あたりを彷徨っていたアストンヴィラが、ウナイ・エメリを監督に据えてから大躍進を見せている。22/23シーズンはECL(ヨーロッパ・カンファレンス・リーグ)出場権を得る7位。今シーズンは遂に4位、CLリーグ出場権をあと少しで獲得できるところまできている。彼らが行ってきたこと、そして彼らがこれからどこへ向かうのか見ていこう。

これまで

 時は2018年。アストンヴィラは現オーナーであるエジプト人実業家ナセフ・サウィリスとアメリカ人実業家ウェズ・イーデンスの会社「V sports」によって買収された。これによって、アストンヴィラは上位のクラブと遜色ない資金力を手に入れた。

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試合を観戦するウェズ・イーデンス(左)とナセフ・サウィリス(右)

 買収当時のアストンヴィラは2部に属していた。2015年前後の中国サッカーバブルの影響もあり、中国企業に買収されていた。2018年当時のアストンヴィラは経営的にもかなり厳しい状況に陥っていた。あまりに厳しく、クラブ解散の危機に瀕していたという。

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当時のトニー・シアオーナー

 さて、新オーナーが就任したアストンヴィラ。ディーン・スミスを監督に据え、2部脱出を狙う。現キャプテンであるジョン・マッギンやタイロン・ミングスを獲得。リーグ戦でも、10連勝を達成し1年でチャンピオンシップへの昇格を決めた。現在はマンチェスターシティで活躍している、生え抜きのエースだったジャック・グリーリッシュの活躍も昇格に大きな役割を果たした。そこから数年エズリ・コンサやドウグラス・ルイス(19/20)、ワトキンス(20/21)、エミリアーノ・マルティネス(20/21)を獲得しチーム力を高めた。

 2021年11月には、スティーブン・ジェラードが監督に就任する。ジェラード監督については、あの微妙な終わり際を覚えている人が多いかもしれない。当時のジェラード監督はスコットランド、レンジャーズで無敗優勝をしており、かなりの期待感があったと考えられる。エミリアーノ・ブエンディア。レバークーゼンからレオン・ベイリー、エバートンからルカ・ディーニュ。バルセロナから、フェリペ・コウチーニョを獲得。多くの選手を獲得した一方で、エースであるジャック・グリーリッシュがマンチェスターシティに約1億ユーロで移籍。リーグ戦では、変わらずワトキンスが二桁得点を記録するものの結果は振るわず、14位でシーズンを終えた。

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 翌年、戦術などを担当していたアシスタントコーチがチームを離れた状態でシーズンがスタートした。開幕11試合でわずか2勝しか挙げられず。12節フラム戦での0-3の敗北が決定打になり、ジェラードの解任が発表された。

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 解任から、わずか数日後ビジャレアルを率いていたウナイ・エメリの就任が発表された。エメリ率いるビジャレアルは昨年のチャンピオンズリーグバイエルンを破り、準決勝まで進出しており、新監督には期待が寄せられていた。ただ、エメリは数年前、同じリーグのアーセナルで手ひどい失敗を経験したばかりだった。期待と不安が入り乱れる中、エメリは監督の座について。

 就任し2試合後すぐに、ワールドカップによる中断期間が入りエメリがチームに彼の考えを教え込む準備期間が十分に取れたこと。GKエミリアーノマルティネスがワールドカップを通して、絶好調になったことなど。シーズン途中で就任した監督は上手く新チームをスタートさせた。

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 ウナイ・エメリとアストンヴィラがどのように戦ってきたかは初めに言った通りだ。今まで、多くのファンにとって目に留まらない存在だった、アストンヴィラ。来シーズンからは今よりも、多くのファンの目に留まりそうである(良くも悪くも)。さて、そんなアストンヴィラの魅力はどんなところにあるだろう?

いくつかのポイントを見ていこう。

 

ポイント1:ユーティリティのある選手たち

ウナイ・エメリのアストンヴィラでは、基本的に4-2-3-1を採用している。

5/5 ブライトン戦

 最近の試合のメンバーを見てみると、キーパー「ロビン・オルセン」。ディフェンスライン右から順番に、右サイドバック「エズリ・コンサ」、右センターバック「ディエゴ・カルロス」、左センターバック「パウ・トーレス」、左サイドバック「ルカ・ディーニュ」。2ボランチは右「ジョン・マッギン」、左「ドウグラス・ルイス」。トップ下「モーガン・ロジャース」、左サイドハーフ「ムサ・ディアビ」、右サイドハーフ「リオン・ベイリー」。ワントップ「オーリ―・ワトキンス」になっている。

 ロジャースが左サイドハーフディアビがトップ下でプレーすることもある。マッギンがトップ下でプレーすることも、左サイドハーフでプレーすることもある。今は怪我でいないユーリ・ティーレマンスもボランチ、トップ下、左サイドハーフでプレーしてきた。

 前半戦ほぼ全試合に出場していた絶対的ボランチ「ブバカル・カマラ」。彼が負傷しても、高いレベルで複数ポジションをこなすことができる選手たちによって、大きな影響を受けずにここまで来ている。

ポイント2 :ビルドアップ

 アストンヴィラのビルドアップについても簡単に形だけ見ておこう。

 


 ビルドアップは、低い位置からスタートするキーパーを含めた5枚の最終ラインと2ボランチを中心に行われる。7人は低い位置にとどまり、前線の4人はトップ下の選手が少し上がり4人横並びのような形になる。よく見られるのが、左センターバック「パウ・トーレス」から、ワトキンスや少し内側に入って来た左サイドハーフへの中距離のパスである。5枚の最終ラインと2ボランチに積極的にプレスをかけると、前線4人と相手は人数が同じになることが多い。2ボランチとの間のスペースを利用することで上手くボールを収めることができるわけだ。

 ひとたび、ボールが前進すると左サイドハーフが内側に入ったことで生まれるスペースに左サイドバックが上がる。残った3人により、3バックが形成される。左サイドハーフやワントップは相手を背負いながらボールを受けることになるため、体格のいいワトキンスやザニオーロには比較的あっていると言えるだろう。ザニオーロに関しては、出場機会が少ないだけに適応に時間がかかっている印象がある。最近よくなってきているだけに来季はどうなるのか気になる。ローンが終了するが何か動きがあるだろうか。また、内側に入ってプレーするといった特徴故にハーフスペースでのプレーを得意とする選手にもあっていると言えるだろう。ブバカル・カマラ怪我前はマッギン。これまた怪我で戦線を離れているジェイコブ・ラムジーなどがよく起用されていた。来季は誰が起用されるだろうか。

ポイント3:選手たち(ミッドフィールダーズ)

ドウグラス・ルイス

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 チームで今最も価値のある選手であるドウグラス・ルイス(25)。市場価値は7000万ユーロほどである(Transfermarkt.com参照)。人によっては7000万が高いのか低いのかさっぱりだと思うが、現在世界で最も価値のある選手top50に入っている(こちらもTransfermarkt.com参照)。ブラジルのヴァスコ・ダ・ガマがプロキャリアを始めたルイスはマンチェスターシティへ。その後、スペイン、ジローナへとローンで渡る。そして、ローン終了後にアストンヴィラに加入することになる。ちなみに、ジローナはマンチェスターシティを頂点としたフットボールクラブのネットワークに加入している。つまり、シティは効率的な育成やその経過観察のしやすいジローナにルイスを送りだしたわけだが、理由はいずれにせよシティの構想には入れなかった。後述するが、アストンヴィラも国際的なネットワークを構築し始めている。アストンヴィラに加入当初は背番号通り6番(守備的ミッドフィールダー)の位置でプレーすることが多かった。ただ、最近は他の守備的ミッドフィールダーの加入により、以前よりも前でプレーすることが増えた。そのおかげもあり、プレミアリーグで今シーズンは現段階で33試合、9ゴール5アシストを記録している。一昨年は31試合で2ゴール3アシスト。昨シーズンは33試合で6ゴール6アシストと毎年順調に記録をのばしている。さらに、20/21シーズンから1試合当たりのキーパスに関しても、毎年上昇している。20/21(0.6本),21/22(1.1本),22/23(1.2本),23/24(1.5本)(Who.scores.com 参照)。さらに、ルイスはセットプレーのキッカーも任されている。以前記したようにアストンヴィラはそのセットプレーを武器の一つにしている。それもルイスのキック制度あってのものだ。守備から攻撃まで、文字通り試合を支配するルイス。実際に移籍することはなかったが多くのクラブが注目していることは間違いないだろう。アストンヴィラでプレーすることに感謝しているとインタビューで述べていたが、彼のキャリアの行く末は要注目だ。

ちなみに、ドウグラス・ルイスは配信サイトTwitchでゲームの配信をたまに行っている。興味のある人は見てみよう。

m.twitch.tv

ジョン・マッギン

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 キャプテンのジョン・マッギンは今シーズンここまで、33試合に出場し6ゴール、4アシストを記録している。前述したように、いくつものポジションをこなすこの選手はアストンヴィラに欠かせない選手になっている。スコットランドハイバーニアンから2018年にアストンヴィラにやってくると中心選手になった。体を利用してのドリブルやボールキープが得意なマッギンは左サイドハーフとして、ハーフスペースで。そしてボランチとしてプレシャーを受けながらのプレーなどの場面で活躍している。プレースタイルは「戦うスコティッシュ」と形容されるように闘志を前面に出し、エネルギッシュに動き回る。想像されるようなタフなプレー相手へのタックル、運動量を生かしどこへでも顔を出しボールを受けるプレー。それらだけでなく、プレースタイルや彼の見た目から注目されないことが多いが、彼の技術の高さも特筆するべきことである。ボールを奪われないように体を相手の間に入れる技術は達人の域にあり、上手く反転してからの左足から出るパスも高い精度を誇る。さらに、ミドルシュートも得意としている。攻撃から守備まで精力的に動き回るだけでなく、それぞれのポイントで輝く技術を持っている。選手本人の印象とは、若干合わないかもしれないがかなり完成されたミッドフィールダーだ。

ポイント4:ヴィッセル神戸との戦略的パートナーシップ

www.vissel-kobe.co.jp

2023年10月19日ヴィッセル神戸アストンヴィラとの戦略的パートナーシップに関しての合意を発表した。パートナーシップの内容は以下の内容があげられる。

 

両クラブは多くの重要な分野で協力しパフォーマンス、スカウティング、リクルートメント、データ分析、トップチームの選手管理、商業面やブランディング面などで知見を共有する。

 

 「V sports」はヴィッセル神戸のほかにも、既にポルトガル1部ヴィトーリアSCとエジプトのZED FCのオーナーを務めており、彼らとも協力関係の強化が図られるそうだ。国際的なネットワークを構築することで世界中から才能を集め、育成することを効率的に行うことができるわけだ。ヴィッセル神戸もそのネットワークの一部になったわけである。いずれにせよ、今回の神戸とのパートナーシップの提携は日本人のプレミアリーグへの門戸を広げるものになるかもしれない。

 国際的なネットワークを構築するほかにチームの強さを維持することも強豪になるためには必要なことだ。潤沢な資金力を得たアストンヴィラはこれまで、主力選手の引き抜きにほとんどあっていない。唯一の例が記録的な移籍金でマンチェスターシティに移籍したジャック・グリーリッシュだけだろう。資金力に余裕ができたことで主力選手を泣く泣く売るといったこともなくなり、チームが安定してきている。ドウグラス・ルイスなどはアーセナルリバプールへの移籍の噂が流れることがある。冬のマーケットでは動かなかったが次の夏のマーケットでどうなるか分からないが、少なくとも選手の価値を吟味する余裕がある。今シーズン、チャンピオンズリーグへの出場権を獲得することができれば、より高いコンペティションへの出場を求めて移籍するケースなども減ることが考えられる。アストンヴィラが名実ともにビッグクラブとなる日はそう遠くないのかもしれない。

最後に

 2024/05/10 現在では、アストンヴィラプレミアリーグで4位と来季のチャンピオンズリーグ出場権を得られる順位につけている。一方で、カンファレンスリーグでは、オリンピアコスに0-2、合計2-6で敗北した。プレミアリーグの残り2節はリバプールクリスタルパレス戦を残している。来季のチャンピオンズリーグ出場権を争う5位のトッテナムは残り3節。その中にはマンチェスターシティ戦を残している。アストンヴィラは1試合消化が多い状態でそのトッテナムと7ポイント差がついている。アストンヴィラに関しては、リバプールは言わずもがな、ユナイテッドを4-0で粉砕したクリスタルパレスなど、残り2節も簡単なものにはならないだろう。

 来季のチャンピオンズリーグもしくはヨーロッパリーグの出場権を獲得できることは確定している。今年はカンファレンスリーグに出場していたが、さらに高いレベルの大会に出場することを考えると今の選手層は少し薄くないだろうか。選手の補強は様々な事情があるだろうが、クラブも考えていることだろう。来季、新たに来る選手を想像してみてはいかがだろうか。